小さな雷鳴が聞こえる。
窓に伝う雫を見つめ、朦朧とした意識の中ルフレは耳を澄ました。
雨雲は去り、雲の切れ間からは青空が覗いている。それでも千切れた鈍色の雲はまだ浮かんでいて、遠くへ雷雨を届け、景色の一部は烟って見えた。
イーリスにとっても、この雨は作物を育てる恵みの雨だ。だというのに気分は晴れず、シーツから抜け出して雫が伝う硝子にそっと額を当てる。火照った身体には丁度いい冷たさだ。
――これでよかったのでしょうか。
ふわふわと熱を帯びている肉体とは対照的に、ルフレの心は重く、鉛のように沈殿していた。
ギムレーは封印された。ペレジアで再び、物言わぬ岩山と化しその身体を横たえている。
クロムとルフレは祝勝ムードもそこそこにイーリスへと戻り、諸国と連携して戦乱で荒れた国を再建していた。共に戦った者たちの協力もあり、戦いで疲弊した国土はみるみると復興してきているのが窓の外から見える景色からもわかる。
正式に聖王としての儀式を終え、夫クロムは周りの支えもあり立派な王として平和への道を歩みだした。再会した赤子ルキナも、日毎に成長し愛らしい笑みを浮かべ癒してくれる。つい最近言葉を喋るようになり、城内を沸かせたのだ。初めての言葉はやはりクロムを呼ぶ声であり、もうすぐ母である自分を呼ぶ日が来るのだろうと今から待ち遠しい。
それでも、ルフレの心からはこびり付いた陰りが取れない。誇らしく愛しい夫と可愛らしい娘が傍にいてくれているというのに、己の手の甲を見る度に暗雲が立ち込めるのだ。
邪竜は封印されたが鍵たる器の血は残り、受け継がれていく。ルキナ、そしていつか生まれるだろうマークの子供のそのまた子供、さらにその先の子孫は、再びギムレーとあいまみえる可能性がある。
果たして、その時が来たら彼らは勝てるのだろうか?
手を握り締める。硬質な硝子の感触に身震いしながら、ルフレは目を伏せた。
どんなに悲劇を語り継がせようが、人は忘れる生き物だ。その隙を付き、狡猾な邪竜は静かに目覚めの時を待っているのかもしれない。ファウダーは死に、ギムレー教団は瓦解したとはいえ邪な志し、或いは破滅への願いを抱く者は潰えた訳ではないのだ。
今回はなんとか勝てたが、それは未来から来たルキナ達、そしてルフレの中におぼろげながら邪竜と化した自分自身の記憶があった為だ。何か一つ噛み合わなければ、未来と同じようにこの世界も滅びへの道を辿っていたのだろう。絆が手繰り寄せた奇跡だが、次回も上手く行くとは限らない。
――私は、間違えてしまったのかもしれない。
昨夜見たルキナの健やかな寝顔、そして未来から来た娘が涙ながら剣を突きつけてくる姿を思い返し、唇を噛む。
自分が犠牲になれば、愛しい彼らの子孫が悲しむ憂いはなくなったのだ。現にルフレは直前までギムレーに手を下そうと心に決めていた。……例え夫の気持ちを裏切り、悲しませることになったとしても。
しかし出来なかった。死というものに対する恐怖、そしてクロムの声に怯んでしまったのだ。
(もっと生きたい、生きて彼の傍にいたい)
足を踏み出そうとした時に一瞬だけ気を取られ、次の瞬間もう一人の自分は神剣に薙ぎ払われていたのだ。
「ルフレ、起きていたのか」
背後から声をかけられ、振り向こうとした瞬間抱き竦められた。
クロムの青い瞳はまだとろりと快楽の余韻を残していて、眠そうに濡れた睫毛を瞬かせている。
「起こしてしまいましたか?」
「いや、気にするな。幾ら昨日激しかったとはいえ、流石にこの時間まで寝ているのもな」
「激しかったのは誰のせいですか?」
髪を掻き分け、首筋に唇を寄せてくる夫の行為がくすぐったくて、しかし窓に手をつかれて逃げ場はない。昨夜の余韻を引きずっている肌はあっという間に快楽へと変わり、口からは笑い声ではなく甘い声が上がってしまった。
「ゃ、だめですって。誰か来たら」
「今日は休暇だ、緊急でなければ人を近づけるなとフレデリクにも伝えてある」
「用意がいいことで……んっ」
薄い皮膚に最初は触れているだけだった唇はやがて舌で舐めあげてきて、その度に肩を震わせ、ルフレは窓に身体を押し付け夫の戯れに耐えた。
耳朶を軽く食まれ、舌を這わされる。普段は情熱的ではあるものの行為自体は淡白な彼にしては執拗だ、と半分とろけかかった意識で考えていると、唾液で濡れた耳元で囁かれた。
「何を考えていたんだ?」
奥底を揺らがすような低い声。吐息を吹き付けられ背筋を震わすと共に、彼には見透かされていたのだと目を細める。
「貴方に隠し事は、できませんね」
「当たり前だ。なんたって半身、だからな」
「ふふ……そうでした」
邪痕が刻まれた掌に、逞しい彼の手が重なった。
なるべくクロムがいる前では顔に出さないようにしていたのだが、変なところで察しが良い彼のことだ。気を遣わせてしまっただろうか、振り返ろうとした瞬間項を強く吸い上げられた。
「ひゃっ」
「お前だけが背負う必要はないんだ。例え、それが一番簡単な道だったとしても……お前がいないと意味がないんだ、ルフレ」
だから俺は後悔していない、そう言ってクロムはルフレの髪を梳いた。
こうして何度彼に慰められてきたのだろうか。
その度満たされ、それでも納得できていない自分がいて。
あの時、彼より一歩早ければ。自分に勇気があれば。
甘やかされる度に胸が疼き、幸せ過ぎる自分が許せなくて負の感情に溺れてしまうのだ。
「クロム、さん、私」
髪に絡められていた指が、辛うじて身に纏っている薄い夜着越しに触れてくる。胸のラインにそってゆっくりと撫でられ、ルフレは消えることない後悔と共に熱い息を吐いた。
もう過ぎたことだ、ルフレには最早どうすることもできない。
ただ信じるしかないのだ、未来の子供達が築く平和を。
だけど強い光と共に色濃い不安は常に寄り添っていて、意味のない悔いがキリキリと締め付けてくる。
だから、幸せでいっぱいにして欲しかった。もうそれしか見えない位に耽溺したかった。
遠くで雷が落ちたのか、一瞬薄暗い室内に眩い光が差し込む。
「沢山クロムさんを、ください」
窓に映る自分は、きっと彼の優しさにつけこんで狡く厚かましい瞳をしているのだろう。だが、そうでもしないと今後も過去ばかりみて、彼と同じ前を見ることができないだろうから。
クロムはそんなルフレに応えるよう、掌を強く握りしめて来た。
朝の清掃に来るメイドすら入れなかったから、ベッドは昨夜のままぐちゃぐちゃであった。
いつもならばどんなに情欲で乱れていても「整えましょうね」と言い出すルフレだが、今日はなにも言わない。為すがままベッドに横たえられ、切なげな瞳でこちらを見つめてくる。
「ルフレ」
呼びかけてみれば、彼女は応えるように首の後ろへと腕を回してきた。
引き寄せられ、口づけを交わす。しばらく柔らかい唇と触れ合い、うっすらと開いた口内へと割入ろうとすれば彼女から積極的に絡ませてきた。直接熱く湿った温度に触れ合いまぐわう。
喘ぎに近い吐息と水音、シーツが擦れる音だけが響く部屋。あんなに昨夜吐き出した情欲はあっさりと高まり、口づけはそのままにクロムはルフレの夜着を捲り上げた。
戦争を終え、執務に関わることが多くなった為か以前よりふっくらとした胸。「また訓練しないと」とたまに大きな独り言を言っている妻だが、これくらい柔らかい方が抱き心地がいいとクロムは内心思っている。口に出したら「デリカシーがない」と怒られるので言えないのだが。
柔肉を楽しむよう掌で包み、押しつぶしてしまわないようにそっと掴む。口づけに夢中だったルフレは足を震わせ、新たな快楽を享受するかのように小さな声で喘いだ。
「んっ……」
長かった口づけを終わらせると、ルフレは口の端から溢れた唾液をそのままに物欲しそうな声で啼く。餌を待つ雛鳥のようだ、とクロムは笑い、彼女の頭を撫でて愛撫を続けた。
胸元に口を近づけると、昨日身体に散らした痕がよく見える。暫く消えないように強く吸えば、ルフレはくすぐったそうにしながらも抱き寄せてきた。ふかふかの胸に顔を包まれ、その暖かさと甘い香りにクラクラとしてしまう。戯れのように少し大きくなり始めた胸の頂きを口に含み、舌で転がした。柔らかさと熱を堪能しながら彼女を食めば、くすぐったそうな声からだんだん切なげな喘ぎへと声のトーンが変わっていく。
昨晩はがむしゃらに体を重ね合わせたが、たまにはゆっくりと触れ合うのもいいかもしれない。――いつ敵襲があるかわからないあの頃とは違い、これからはずっと一緒にいられるのだから。
そう丁寧な行為を心がけようとするも、この性分のためか昂ぶりを律するのは未だに不得意だ。
それまでされるがままだったルフレがふと身じろぎをし、下着の上からでもわかるくらいに膨らんだ自身に触れてきた。
「クロムさんったら、あたってる」
「む」
昨夜あれほど精を吐き出したそこをまさぐられ、腰に来る快楽にクロムは顔を顰めた。悪戯に成功した子供のように少しだけ意地悪い笑みを浮かべているルフレをジロリと見るも、撫で擦るような手の動きに身体は正直なもので、ますます大きくなってしまう。
「こら、ルフレ。まだ前戯中だろ」
「……早く欲しいって言ったら、はしたない女って怒ります?」
じっとこちらを見つめてくるルフレの瞳は蜜のように蕩けているが、何処か仄暗い哀切さが滲んでいて心臓がドキリとする。艶めいた呼気を零す唇に欲は刺激されていくが、同時にこちらの胸を締め付けるような憂いが差し込んできた。
あの時、ギムレーに止めを刺そうと歩みだしたルフレを止めた日から。傍にいて笑っているというのに、ふとした瞬間に何処か遠い所をみていることが多くなった。
誰が考えても分かることだ、一人の犠牲で諸悪の根源を滅ぼせるのならば、それが正しいということくらい。
だがクロムはどうしても許せなかった。その一人に全てを押し付け、安寧を得ることなど。
ましてやその人は大切な人だったのだ。もう何も失いたくない。
例え愚かだと言われようとも、リスクを犯そうとも……ルフレと共に生きていたかった。
だから思わず名を叫んだ。そうすればきっと、迷いながら進む彼女が立ち止まってくれると確信があったから。
結果的に彼女を悔恨の沼に捉えてしまうことになったとしても、クロムの心に後悔はない。
その苦しみを分かち合いたい。そして、子孫達にその想いを繋げて行きたい。
きっと自分達の因子を受け継いだ子供達ならば、彼らの大事な物を守る為に何度でも邪竜に立ち向かってくれると信じているのだ。そしてその想いを繋げて未来に託すことこそ、自分が望む平和な世界なのだから。
「ルフレ」
ルフレの邪痕が刻まれた手をとる。聖痕のように決して消えることがないそれを見て、ルフレは顔を顰め不安そうな目でクロムを見た。
「これがなければ、俺はあそこでお前と出会えなかったかもしれない。だから、不謹慎かもしれないが感謝しているんだ。……これごとお前を、愛してる」
手の甲に口付ける。そして舌を出し、ギムレーを模しただろう痣をゆっくりとなぞった。
「ゃ、クロムさん」
「だからお前は、俺だけを見ていればいい」
「クロム、さん……」
「一緒に生きよう、運命を変えることができたのだから、俺たちならばきっとこれを正しく受け継ぐことだって出来る」
気にしている部分を触れられ、生娘のようにビクビクと震えるルフレの太腿を撫でながら、クロムは手の甲への愛撫を続けた。
「お前がいたから、俺はここまで進むことができたんだ。だから、今度は俺がお前の傍にいる」
「私、わたしは……」
「乗り越えられるさ。俺とお前の子供なら」
ルフレの腹部にそっと触れる。涙で濡れた瞳が見上げてきて、言葉になっていない嗚咽を漏らした。
――昔、迷子になった時に姉さんと俺を見つけた時のリズと同じ顔をしている。
普段気丈で、時に図太く振舞う彼女がクロムにしか見せないだろう顔。もっとそんな彼女の弱さを晒して、打ち明けて欲しい。
姉が死んだと思って自暴自棄になり、情けない所を沢山見せてきた。その時手を差し伸べ立ち上げてくれたのは、ほかでもないルフレだったのだから。
手の甲から口を離し、しっかりと手を組み握り締める。ルフレは最初快感のためなのか、それとも躊躇している為なのかピクリと指を動かしたが、安堵したのか振り切ったのか、次第に指を折りクロムに応えた。
「わたし、クロムさんを愛してます」
「ああ、知っている」
だから、信じてもいいですよね?
ルフレがそう囁くよりも早く、クロムは唇を奪った。当然だと言わんばかりに息を奪い、彼女の下着に手をかける。
ルフレが呼吸を求めて小さく開けた口から声が溢れた。しかしそれすらも貪るように舌をねじ込み、すっかりとぬかるんでいた秘所へも猛る己を押し入れた。
彼女の胸が深く上下する。しかし手はクロムを押しのけようとはせず、しっかりと握り締められたままだ。
花が解けるように迎え入れてくれる体内。最も感覚が研ぎ澄まされた部位を擦りつけ合うことで酔にも似た陶酔感が広がり、しかしそれは満たされることなくもっともっと欲しいと際限なく膨れ上がっていくのだ。
「は、ふ、ぁっ」
顎を伝い落ちていく唾液にこれ以上は流石に無理かと悟り、ルフレの口から舌を抜く。空気を求め彼女の胸がふるりと震え、しかし呼吸は次の瞬間淫らな声へと塗り替えられていった。
律動で絹のシーツがますますたわんで行く。火が付いた身体はとどまることを知らず、ルフレの濡れた中をもっとかき乱していった。
「ゃ、クロム、さんっ」
時折勢い余って引き抜いてしまい、折角だからもっと蜜をまとわせようと彼女の入口に挟みこんで擦りつけると、もどかしさの為か彼女が悲鳴を上げた。早く戻って欲しいといわんばかりに腰を浮かせ、クロムを求めようとする妻が愛しくて仕方がない。敏感な突起を己で弾いてから挿入すると子猫のように鳴いて寝台に身を埋めた。
蕾が花開いていくように、どんどん素直になって痴態を晒していくルフレ。理性も懊悩も剥いで本能で向き合えば彼女はギムレーの器ではなく、クロムにとって大事な女でそれ以上でもそれ以下でもない。
――口ではなんといっても、俺はただ、ルフレを失いたくなかった。それだけなんだ。
王としては問題ある考えなのかもしれない。ただクロムという個人の男は、彼女というかけがえのない存在を手放したくなかった。この手でずっと咲かせ、傍におきたかった。
足を絡ませ、快楽をより得ようと腰を動かし胸元に口付けてくるルフレを見下ろしながら、クロムは黒い波濤が胸の内で荒れ狂うのを感じる。
きっと聡い彼女ならばこの醜い気持ちに気づいているのかもしれない、それでも手放したくなかった。何を言おうと引き止め、彼女の真髄まで貪り交じり合いたい。
――例え、世界や愛しい彼女に陰りを落とす結果になったとしても。
遠くでまた雷が光った。それでも音は先ほどよりも遠のいていて、いずれ光も気づかなくなるのだろう。
互いの体液と動きでグチグチと淫靡な音は益々増して行き、その音でまた理性が崩れていく。
それでもいつかは高みに昇りつめてしまうもので、己の限界が近くなってきたのを悟ったクロムはルフレの中に精を出すため腰の動きをより早めた。かき回すような漫然とした動きから、最も感じる部位を集中的に穿つ攻めにルフレのぬかるんだ蜜壷は引き締まっていく。それまで甘く蕩けてだしているかのように見えたルフレの瞳孔も少し狭まり、口からはより艶めいた悲鳴が溢れた。
「ひぁ、も、だめぇッ」
喉を反らせ、はしたない声を上げるものの手はしっかりと繋いだままだ。まるで自己をつなぎ止めるかの様に、手の甲を握りしめてくる。
それと同時にルフレの中が蠢き、今にも達しそうなクロムをきつく包み込み締め上げる。その熱さと思考を焦がす快楽に声を漏らし、彼女の胎内まで犯すよう精を吐き出した。
汗がぽたぽたと落ちる。ルフレもまた息を荒げ、波紋が広がっていくかのように腹部を何度も震わせた。
「これまで、私達何回したんでしょうね……」
暗雲は、随分と遠くへ行ってしまった。
蒸し暑く気怠い昼下がり。何もする気がしなくて裸のまま寝そべり窓を見つめていると、同じく何も身に纏っていないルフレがのしかかってきた。じっとりとかいた汗で首筋に髪が張り付き、何とも言えない妖艶さを漂わせる彼女はクロムの腹部を下になぞると、精で汚れ幾分とおとなしくなったクロム自身に触れてくる。
「まだこれからも増えるだろ。マークもまだ生まれてきていないし、俺は3番目も見たい」
「そ、それはそうですけど……もう、相変わらずムードの欠片もないんですから」
「お前だって大概だろ?初めてのころは引っ掻くは泣くわでムードどころじゃなかったぞ」
「それは貴方が勢いで押し倒してきて覚悟があまりなかったせいですー」
欲を吐き出した為か幾分と理性的になったせいか、軽口が飛び交い二人してクツクツと笑った。
まだ聖王を継ぐとは夢にも思っていなかった自警団団長と、行き倒れの記憶喪失軍師。よくぞここまで来たと溜息をつくと、それまで戯れのように撫でていただけのルフレがいきなりクロムを口に含み始める。
「おい、ルフレ……」
「わらひ、たくさんほひいって、いいまひたよね?」
精で汚れたそこを丁寧に舐めながら笑う妻に、クロムは不覚にもドキリとする。
そうだ、彼女はただほしがるだけの女ではない。時に大胆に、したたかに求める時だって今までもあったのだ。
蜂蜜色の瞳は朝方窓を見つめていた切なさが消え失せ、戦場で勝ち戦を見るような自信に満ちたルフレのそれだ。もう吐き出す精がないくらいに出したそれは彼女の口淫であっさりと元気を取り戻し、クロムは己の単純さと妻の強さに肩をすくめ、「もう少ししおらしいままでもよかったんだが」と小声で口走ってしまった瞬間、背を駆け上がるようなチリリとした痛みが走った。
「っ!おいこらルフレ、今わざと歯当てただろ!!」
「気のせいですよ、それよりもっとしましょう?明日からまた公務なんですから」
またたっぷり書類をやってもらいますからね。
そうさらりという妻にクロムは溜息をつき、「お前には叶わないな」と彼女の髪を梳いて苦笑いを浮かべる。
口から離し、クロムをさらに高ぶらせようと手を動かすルフレは憂いを払い、向日葵のように笑っていた。
窓の外で、日差しが当たって水たまりが気化して遠くが靄かかってみえた。この靄が晴れれば曇りなき青空が見えるのだろうと、ルフレは夫を弄りながら目を細め笑う。右の掌が何かいいたげにジリッと疼いたように感じたが、気にせず愛する者に集中しようとじっとりと湿った髪をかきあげた。
彼の隣りで笑って、己の血に流れる憎らしい邪竜と共に生きよう。
きっと子供達は彼に似て何事にも負けぬ意志と光を持っているに違いないのだから。
じっとじとの仄暗い話を書きたくて書いたらなんだか自分でもよくわからなくなってしまいました…
封印EDは後暗さはあるけれど、俺たちなら乗り越えられるはずみたいな希望を感じるのがいいですね、ほぼノーリスクでギムレー消滅させられる犠牲EDのせいでいまいちアレな気もしますが。
何度だって聖王の血を引くものが倒してやるってセリフが好きです。