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FE覚醒の小説や絵、妄想をたれながしています。
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DLC絶望の未来妄想捏造小説シリーズです。
このシリーズは作者の妄想が凄まじく、ストーリーも暗くキャラ崩壊がひどいので閲覧注意です。
また人によっては残酷に感じる描写も含まれています。
簡単な説明としては二人のマークを中心としたクロルフ前提子世代メインの話となっております。

今回は前編、マーク♀の出生~裏切りまでとなっております。





「酷い有様ですね…」

足もとに広がる惨状にルフレは思わず眉をひそめた。
ファウダ―を追いかけて進軍したペレジアのとある館。しかし主は既に抜け出し、禍々しい竜の装飾がされた館は紅く濡れた祭壇を中心におびただしい死体が転がっていた。
みなルフレが長らく愛用している外套と似た衣装を身にまとい、あるものは祈りの態勢のまま、あるものは目を見開いて血を垂れ流して方陣型に倒れている。…恐らくは互いに自決しあった末路であろう。中には幼い子供の姿もあり、ファウダ―と決着をつけるために意気揚々と進んでいた仲間達は皆言葉を失っていた。

「ファウダ―の手のものか、呪術による洗脳か。或いは私達が進軍するのにパニックをおこしたのか…ギムレーを復活させようとあがいたのでしょうね」

そんなことしても無意味なのに。禍々しい紋章が刻まれた掌を握りしめながら、ルフレは悲しい目をして呟いた。クロムは妻である彼女の肩をそっと支える。
実の父であるファウダ―、そして邪龍の器であるルフレにはこの光景はあまりにも酷だ。

「おまえのせいじゃない、憎むべきはファウダ―だ」
「…わかっています」

ありがとうございます、そう振り返って微笑む彼女だが、人の感情に敏くないクロムでも彼女が無理していることはわかる。数多の死体をみてきたとはいえ、自分に関わることで起きた殺戮に心を痛めているのだろう。

「あまり長くいるべき場所ではないですね、生存者捜索をしたらすぐに戻りましょう。埋葬の手配もしておきます」
「そうだな、頼むフレデリク」

見かねたフレデリクが進言し、クロムが頷くと茫然としていた仲間達が各々に出来ることをしようと動きだした。
普段明るいリズ、マリアベルは互いに手を繋ぎうつむいている。死臭に満ちたこの空間に生の気配がしない。それでも彼女達は助けられる命を救おうと、杖を握り歩き出した。リベラは軽く膝をつき「神よ、異教ではありますが彼等をお導きください」と沈痛な表情で祈りをささげる。
戦争のむなしさは理解していた。だが無意味な殺戮の痕をむざむざと見せられることに慣れている者はいない。

「行こうルフレ」
「ええ…」

血だまりの中いつまでもたっている訳にはいかない、仲間の為にも早く目的を果たそうとクロムに促されルフレも歩き出すが、かぼそい声を聞いた気がして足を止めた。

「…ね…さ…?」

耳を澄まし、ルフレは声のする方へ顔を向けた。風音ではない、呻きに近いが確実に誰かが呼んでいる。

「どうしたルフレ?」
「生存者が!」

いぶかしげな顔をしたクロムの手から逃れると、聴覚を研ぎ澄ましルフレは血で濡れた床を駆けた。

まだ生温かい屍の山の中をかき分け、ルフレはついに声の主を見つける。
何かを抱きしめている華奢な体の女性が、濁りかけた目でこちらをぼんやりと見つめている。
「しっかりしてください!」と励ましながらルフレは彼女をそっと抱き起こした。
何かを言おうとした女性の震える唇からごぷりと血が漏れた。

「ねえ、さん…や、っぱり、ねえさん、なのね…?」
「姉さん?」

疑問を口にしようとしたが、ルフレは彼女の傷をみて思わず言葉を失う。魔術で貫かれたのか腹部には大きな穴が開いており、杖を持ってしても再生しない事は明確であった。

「いき、てたのね…器の子と、にげた…のに…」

器の子。それはまさか、私?
困惑するルフレを知ってか知らずか、瀕死の女性は血を零すのも気にせず言葉を続けた。
言われてみれば、彼女は若き頃の母に似ている。髪の色も瞳の色も同じ。彼女はもしかしたら、ルフレの叔母なのかもしれない。意識が朦朧としている為か、ルフレを姉と勘違いしているのだろう。

「にくん、でた…ね、さん…を…で、も…いま、なら、わ、かる…きもち…」

母に似た目元を細めながら彼女は何かを抱きしめていた両手を緩める。黒い布に包まれた小さなものが動くのに気付いて、ルフレは目を丸くした。

「この、こが…いる、から…ファウダ―さま、の子…いと、し…」

布がずれ、母と彼女、そしてルフレと同じ髪色をした赤子の顔が露わになった。泣きつかれたのか、それとも眠りの呪術をかけられたのか。頬を林檎色に染め、安らかに寝息を立てている。
ファウダ―はルフレ親子が逃げた後もギムレーの器作りを諦めていなかったのだ。恐らく母の一族と片っ端から交じり何の罪もない子供を作ってきたのだろう。もしかしたら今まで戦っていたギムレー教徒に腹違いの兄弟がいたのかもしれない。
唖然とするルフレを前に、女性は愛しそうにぎこちない手で赤子を撫でる。最後に深く息を吸い込むと、彼女は縋るように濡れた目でルフレに顔を向けた。今まで子供を守る為に辛うじて保っていただろう命の炎が、ルフレに会って安心したのか尽きようとしている。

「ねえ、さ、おね、が…マーク、だけ、で、も…」
「待って!行かないでください、貴方にはまだ聞きたいことが!」

力なく伸ばされた手がそのまま空を切る。ルフレがその手を握ろうとすると、弱弱しく輝いていた瞳から光が消えた。口元には微笑みを浮かべ、マークと呼ばれた幼子を残し彼女は逝ってしまったのだ。
聞きたいことが沢山あった。若い頃の母のこと、ギムレーのこと、そして残された自分の子と同じ名前の赤子のこと。
しかし彼女は二度と口を開くことが無いだろう。頭で理解していても、ルフレの胸はやりきれない想いで溢れ項垂れた。
自身に流れる血、そしてこの身に宿る邪龍が引き起こした悲劇。受け止めきるにはあまりにも重い事実だが、それでも逃げることは許されない。
そっと瞼を閉じさせ、リベラに教わった簡単な祈りを口にするとルフレは彼女の胸で眠る赤子を抱き上げる。白く小さな掌には邪痕はなく、温もりを求めてか外套を握りしめてきて思わず微笑んでしまう。名前だけでなく、顔までそっくりだったのだ。

「ルフレ!」
「クロムさん」

夫である彼が駆けよってくると、ルフレはようやく立ち上がり振り返った。
単独行動はするな、敵が何処かにいたらどうする。そう言おうとしたクロムだったが、彼女の胸に抱かれている赤子に目を丸くした。髪の色以外は今年生まれ、城にいる息子に瓜二つだったのだ。

「その子は…?」

ルフレは愛しそうに眠る子を撫でると、にこりと微笑んでこう言った。

「マ―クです。私の妹なんですよ」




*




こうしてルフレの姪であり腹違いの妹であるマークは連れ帰られ、王妃の歳が離れた妹としてルキナ、マークと共に育てられた。
ルキナはマークを本当の妹のように慈しんだ。王子マークは彼女をマーク姉さんと呼び親しみ、ルフレに教わる戦術で幼いながらも互いに軍師見習いとして競い合うことになる。



「あーまた負けました!」
「うふふ、マークさんが私に勝てると思うなんて100年早いですよ!」

悔しそうにマーク王子がチェスの駒を投げると、ちょろいですね、とマークが可愛らしい笑顔に似合わぬ毒を吐いた。
そんな2人を、ルキナは鍛錬に使った剣を磨きながら微笑ましげに見守っている。父に似て頭を働かすより体を使う方が好きなルキナは2人のチェスには混ざれない。自分も一応母に習っていたのだが、ハンデをつけて貰っても到底2人に勝てる気がしないのだ。従兄弟のウードはたまに意気込んで勝負を申し込むが、少女マークに大差で負けた罰として菓子をしょっちゅう巻き上げられている。

「あ、でも僕の方が生存者が多いですよ、母さんがチェスは戦術と違うと言ってましたから軍師としては僕の方が優秀ですね!」
「いいえ、勝負には私が勝ちました!さあマークさん、約束通り私にガイアさんの高級菓子をくださいね」
「えーあれは本当に貴重なんですよ~ガイアさんを落とし穴に嵌めてやっと手に入れたものなんですから…」
「約束事は約束事です。ね、ルキナさん?」
「ルキナ姉さんはどう思いますか?!勿論可愛い弟である僕を応援してくれますよね?」

性別と髪色だけは違う、そっくりな顔の2人に同時に話を振られ、ルキナは思わず噴き出した。

「マ―ク達は本当に仲良しですね」

お父様とお母様のように、互いの半身になればいいじゃないですか。
そう笑いながら言うと、2人のマークは同じタイミングで顔を見合わせる。

「「えー流石にあそこまでべったりしてませんよ…」」
「誰がべったりしているって?」

いつのまにか苦虫を噛みつぶしたかのような顔をしたクロムが背後にたっており、「げ、父さん」「く、クロムさん」と気まずそうにマーク達は呟く。

「ウードに聞いたぞ、賭けごとをしてるんだってな。あと、ガイアを落とし穴に嵌めたのはどっちだ?」
「「びええええんごめんなさ~い!」」
「あ、こら待て!」

城の中庭を凄い勢いで駆けていく2人を、クロムは追いかけようとしてやめた。
いつもは口喧嘩ばかりしている2人だったが、ピンチになると妙に息があい変な所に罠を仕掛けていたりいつのまにか作っていた逃走経路に飛び込み追いつけたためしがない。

「…あいつら、逃げ脚だけは本当に早いな」
「私に似ましたね」
「お母様!」

むすっとした顔のクロムの傍らにルフレが苦笑しながら立ち、ルキナは剣を置いて駆け寄った。
フェリアの協力要請で出張していた母はルキナを抱きしめる。「俺が先じゃないのか」と少し口を尖らすクロムに「もう、あなたは子供ですか…」と顔を赤くするとルフレはルキナを一度離して今度は夫に抱きつき頬にキスをする。

「その様子だと、マーク達に手を焼かされていたようですね」
「…ああ、お前によく似て恐ろしく頭が良いからな。詳しい悪行はルキナから聞いてくれ」

なあ、ルキナ。そう少しだけ機嫌をよくした父に微笑まれ、ルキナは「はい!」と笑顔で答えた。


もう少し大きくなったらルキナは実戦の為剣を取り、ウード達と共に父の補佐に尽力するだろう。
そして2人のマークが母と共に戦術を練り、イ―リスを、自分たちを守ってくれる。
そうしたら今よりももっと素敵な世界を作れるに違いない。
仲睦まじく寄り添う両親と、それを遠くの木陰からにやにやしながら出刃亀するマーク達を見ながらルキナは考えていた。
そしてその未来はもう直やってくる。
その時は信じてやまなかったのだ。

しかしそんな幸せも、そう長く続かなかった。
聖王夫婦の訃報が大陸中に伝播し、喪が明けリズが聖王代理として一応の混乱を収束させると、片割れのマークが姿を消したのだ。
そして、世界は黒く塗りつぶされていく。







それは5の月の麗らかな陽光に満ちた午後のこと。
マーク達の10度目の生誕祭が行われてすぐの日であった。

「マーク、話があります」

埃っぽい資料倉庫で戦術書をいつものように読んでいると、ルフレがいつになく真剣な顔で話しかけてきた。
悪戯をしかけたのがばれたのかしら、この前はフレデリクさんを罠に引っ掛けてしまったしそれかも。
きっと叱られる。ルフレはこう見えて怒ると壁を壊しまくる聖王さえも尻に敷く女性だ。
こう言う時は素直に謝るのが一番の得策だ。本を閉じ正座して緊張しながらもマークは言葉を待つ。しかし予想していた言葉はかけられず、ルフレは少しだけ迷ったように視線を彷徨わせていた。

「ルフレさん?」
「…これから話すことは貴方にとっては辛い話かもしれません。ですが、貴方にどうしても話しておきたいことなんです」

窓枠の影が母であり姉のような存在にかかる。晴れていた空はいつのまにか雲で翳っていた。
こんな顔したルフレさん、みたことない。マークは少しだけ不安を覚え、胸に抱えた戦術書を抱きしめる。
少しだけルフレは思巡した後、しかし決意したのか重い口を開いた。

いわく、マークはルフレにとって姪であり、腹違いの妹であること。
母は既に亡くなっており、父はギムレー教団の最高指導者ファウダ―であること。
そしてルフレがギムレーの器であること。

「ギムレーって、1000年前に封印された竜のことですよね?」
「そうです、忘れかけられた御伽噺は実在していたんです…これがその証拠」

そういって滅多に外さない手袋を引き抜くと、ルフレは手の甲をマークに見せてきた。
隠されていた白い掌には紫紺に染まった禍々しい紋章が痣として浮き上がっている。書物で見たギムレー教団のシンボルと同じだと気付いた時、マークは背筋がぞくり、と震えた。

「あなたにはこれがないから安心してください。ですが、ファウダ―が…ギムレー教団が存在している限り、貴方の血は狙われ続けます」

手袋を嵌め直しながら、ルフレはマークに真っ直ぐと視線を向けてくる。
マークはまだ幼い為全てのことを理解はできない。だが現状自分がルフレに最も血が近いこと、そしていずれ生まれるかもしれない子供が器と化す宿命を背負っていることに気付かされたのだ。

「私がギムレーになる条件はわかりません…ですが、いつなってもおかしくない。だから貴方にこの事を話しておきたかったんです」
「そんな…ルフレさんは、ギムレーなんかに負けません!」
「ええ、私もそのつもりです。私達の代でなんとしてでもギムレーを封印します。貴方には背負わせませんから安心してください」

マークと同じ瞳の色をした彼女はそういって目を伏せ微笑むと、「そうだ、これを貴方に」と綺麗に折りたたまれた外套を渡してきた。

「これは…?」
「赤ちゃんの貴方をくるんでいた物です。恐らく貴方のお母さんが着ていたものでしょう。今の貴方にはまだ大きいですけど」

私のものとおそろいなんですよ。そう言うと、ルフレはマークの肩に外套を被せる。
厚手の布で作られたそれは確かにまだマークの体には重く丈が余ってしまい裾が床についてしまった。

「呪術がこめられているみたいで、多少の魔法や刃物じゃ破れません。いつか貴方の身を守ってくれるでしょう」
「ルフレさん…」
「怖がらせてごめんなさい、私が貴方を守ります。クロムさんも、ルキナも、マークも。だから、安心して…」

ルフレはそう言うと、マークの体を抱きしめてきた。
彼女は気付いていたのかもしれない。ある日いきなり連れてこられたという2人目のマークに王妃の隠し子ではないかと疑う者は多かった。元より王妃ルフレはペレジアの人間だった。民には受け入れられているが、保守的な貴族たちはルフレのこともマークのこともよくは思っていない。
子供ながら聡いマークは自身の危うい立場に気付かされた。聖王クロムやその周辺の者達が気を使っている者の、無意識の悪意を感じ取っていたのだ。
明るく振る舞ってはいるものの、心の中ではどこか不安で渦巻いていた。同時にルフレやその家族にも引け目を感じていた。自分はこの城の異物なのだと。
だから一日でも早くルフレの力になろうと、戦術を猛勉強していた。彼女の実子であるマーク王子に負けぬよう、ここでの存在価値を見いだす為に。

マークの大きな瞳に涙が浮かぶ。
どこまでこの人は、私のことを見とおしているんだろう。
いつのまにか貯め込んでいた寂しいという感情が溢れ出し、ルフレの胸に縋りついて泣いた。
実子のルキナやマークを抱きしめる姿に最近は何処か遠慮していて、凄く久しぶりに胸の温かさを感じる。
ふわりと感じた何処か懐かしい香りは、ルフレの物なのか、それとも実の母のものであった外套からするものなのだろうか。
これがお母さんの匂いなのかな。
泣きじゃくりながら、マークはぼんやりと考えを巡らせていた。


*


また頭が痛い。
城の私室でベッドに身体を埋めたマークは、頭を抱え一人で呻いていた。
声が聞こえる。
それも、死んだと聞かされたあの人の声が。

主治医やマリアベルには精神的なものだろうと言われたが、それとは違うと心の奥の自分が叫んでいる。サーリャにも呪術的は掛けられていないと診断されたことから、マークの中で確信したことがある。

…ルフレさんは生きている。邪龍の中にいるんだ。

信じたくない、けどどこか嬉しい事実にマークはぼろぼろと涙がこぼれる。
2人の訃報を聞いた時、崩れ落ちるルキナと彼女を支えるマークをみながらルフレが邪龍として覚醒したことに気付かされた。クロムの棺は重いのに対し、ルフレの棺は遺体が見つからなかったと軽かった理由もこれでつじつまが合う。
大人達はルフレもギムレーに殺されたと優しい嘘をついているが、恐らくルフレがクロムを殺したのだろう。そして子供達の中でその事実に気付いているのはマークのみだ。
あの人は生きている。そして最愛の夫を殺してしまったことに哀しみ、泣き叫んでいるのだ。今もたった一人で。

「私の中の血が、ギムレーの声を聞かせてるんだ…」

窓から見える血のように赤い月を見つめながら、マークは一人呟く。
腕の中にはルフレから貰った外套があった。これがないと、最近は満足に眠ることが出来なかった。幼児はお気に入りのブランケットがないと眠れないと聞くが、マークにとってはこれがそれに近いのかもしれない。
以前着た時にはぶかぶかだったそれに袖を通す。
マークの体にはまだ大きいが、それでも袖からは手が覗くし、裾も床につかない。ルフレの外套を思い出し、マークは自身の体を抱きしめた。やはり懐かしい香りがする。
鏡に映る自分の姿はまだ外套に着られている状態だけど、それでも少しずつ憧れの軍師像に近づいているに違いない。

この時の為に、私は戦術を学んできたんだ。

鏡の中の自分に頷いて見せると、マークは魔道書と護身用の剣を携えフードを被り長年親しんだ部屋からそっと出る。
警備の目はこの暗闇に紛れる外套ともう一人のマークと共に考えた逃走経路でなんとかなる。問題は、どうやってギムレーの元へ行くかどうかだ。幼いころマークや幼馴染達と脱走した塀の壁は当然修復されているし、なにより城の外は警備が多い。仮にうまく城を抜け出せたとしても、外は屍兵で溢れている。子供一人では無謀にも程がある。
なにか方法があるはずだ。軍師としての頭を働かせながらマークはすっかり荒れてしまった中庭で空を見上げた。
マークの顔に影が落ちる。雲でも翳ったかしら?そう疑問に思っていると、影はどんどん大きくなり、ついにはマークの真上にある大樹の枝に、みしりと音を立てそれは止まった。
ここで騒ぎを起こすのは得策ではないと、マークは冷静に、しかし震える手で剣を構える。
こんな時に飛竜が現れるなんて。冷や汗を掻きながらルフレのように相手を観察しようとすると、足首に巻かれた布に見覚えがあり、マークは目を見開いた。

「貴方は…」

まだ平和だった頃、幼馴染達と抜け出した森に傷ついた子竜が倒れていた。
退治しよう、と覚えたばかりの武器を振りまわして張り切るシンシアやウード達を可哀そうだと説得し、竜の言葉がわかるというジェロームやンン、杖が使えるブレディの手を借りて手当てしたことがあったのだ。
子竜はある日傷が治ったのか狩られてしまったのか森から姿を消し、ロランの「鶴の恩返しじゃなくて竜の恩返しがあるといいですね」との言葉を信じ一同は寂しい思いで解散したのだが、その時にブレディが包帯の代わりにと巻いたレースのハンカチが、ボロボロになりながらも竜の足首にあったのだ。

「…まさか、本当に竜の恩返し?」

すっかり大きくなった竜はうなずくようにばさりと漆黒の羽を広げると、マークの下に降り立つ。
そんなことが本当にあるのか。もしかしたらギムレーの罠かもしれない。
しかし今は罠でもいい。この城を抜け出し、一刻も早くギムレーの元へ行きたいのだ。迷えば迷うほど警備に見つかりやすくなる。
マークは覚悟を決めると竜の傍に駆け寄る。竜は促すように身を屈め、マークは固い鱗に覆われた背にしっかりとしがみついた。
ジェロームやその母セルジュに乗せてもらったことはあるが、ひんやりとした胴体に身震いをしてしまう。それでも竜は振り落とさず、マークの指示を静かに待っている。

「ギムレーの元へ連れて行って下さい」

そう震える声で呟くと、飛竜は静かに羽ばたきをして空へ浮かび上がった。
予想以上の風と衝撃にマークは目をつぶり、落ちないよう必死で竜の首にしがみつく。
ようやく振動に慣れ再び開いた瞳に、小さくなったイ―リス城が写った。
優しい記憶のある場所。大切な人々がいる場所だ。本来ならルフレがいなくなった穴を埋める為、マーク王子と協力して軍師になるべきなのかもしれない。
しかし、ルキナやマーク王子の周りには仲間がいる。大人だって少しは生き延びているし、幼馴染達もいる。
でも、ルフレは?マークの孤独を埋めてくれた優しい姉は、邪龍となってたった一人で苦しんでいるのだ。

ごめんなさい皆さん。ルキナさん、マークさん。
私はあの人から教わった戦術で、世界の敵になります。

冷たい風に翻弄されながらも、マークは真っ直ぐと目前の闇を見据える。心なしか、脳内に響くあの人の声が大きく、より悲痛なものになっている気がした。
彼女の視線の先には赤い月光を背景に、邪龍の巨影が浮かび上がっていた。


雷光のような頭痛が一瞬走り、顔をしかめ思わず羽根ペンを揺らしてしまう。

「うわ、やっちゃっいました…」

母の遺した戦術書にぼたり、と落ちた大きなインクの痕。溜息をつきながらマーク王子は広がっていく黒い染みをぼんやりと見つめていた。
このところ、奇妙な頭痛に悩まされ眠れない夜が続いてついつい勉強に精を出していたが、そろそろしっかり休まないといけないのかもしれない。この前もリズさんに叱られてルキナ姉さんの手刀で無理矢理失神させられたっけ、と苦笑しながらマークは椅子に寄りかかりながら何気なく窓をみつめた。

両親が死んでから空は淀んでいくばかりだ。今も不気味な赤い月がこちらをあざ笑うように見下ろしてくる。

早く大人になって、立派な軍師にならないと。
焦っても身長は急に伸びやしないからせめて知識だけはと母の資料庫に足を運んだが、これだけの戦術書を研究したのか、とそびえたつ本棚をみて逆に圧倒されてしまったのだ。

「母さんや父さんにはまだまだ教えてもらうことが一杯あったのに」

考えても仕方ないことだけど、と独り言を呟きながらマークはインク瓶の蓋を閉めた。縁に触ってしまっていたのか、手がいつのまにかべっとりと黒く汚れていた。
うわ、と思いながら手洗いに行こうと席を立つ。温かいものでも飲んで無理にでも気を休めないと皆の迷惑になってしまう。

「…マーク姉さんも起きてるのかな」

最近こちらと目を合わせてこない自分とよく似た少女の顔を思い浮かべる。
彼女は自分以上に不眠が酷いらしく、リズ達筆頭に大人達が心配していたが無理した笑顔を浮かべて本心は決して語らない。
皆神経をすり減らし切っていたが、中でも彼女の憔悴した姿は誰が見ても異常だと思っている。それでも彼女へ無理に深入り出来ないのは、皆自分のことで精一杯で疲れきっている為なのだろう。マーク自身もついさっきまでそうだったのだから。
原因不明の頭痛に悩まされている彼女に「持病まで似るもんですかね」と的外れなことを考えながら、ついでに彼女の分もハーブティーを作って貰おうとひんやりとした廊下へと足を進めた。
叔母というと怒るもう一人の姉を想いながらマークが扉を閉めた瞬間、赤い月明りに照らされた部屋の窓に飛竜が飛び立つ姿が映ったのだが彼はまだ気付かない。
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流離(さすら)
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