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FE覚醒の小説や絵、妄想をたれながしています。
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スパコミの無配ですが久しぶりのクロルフ小話です。いつもより短め。
ED後の家族の光景。




翠の契り


「かあさん、ちょっとこっちきて!」

すっかりと暖かくなった南風に乗り、何処か遠くへと運ばれていく白い綿毛。本を捲る手を止め、何気なしにその様子を眺めていると、藍髪をひょこひょこと跳ねさせながら小さなマークが手招きしてきた。

(また落とし穴でも仕掛けてきたのかしら)

悪戯盛りの息子の手には乗るまいと、口元を引き締め東屋から出る。しかしその心配は杞憂に終わりそうだ。彼の傍にある茂みにはしっかりものの姉であるルキナがちょこんと、夫であるクロムがどかりとあぐらをかいて座っていたのだから。

「どうしたんですか、マーク?それに皆揃って」
「こっちこっち!ちょっとすわって!」
「え?あ、こらマーク、急に引っ張ったら……」

目を輝かせた息子に外套を強く引っ張られ、体勢を崩し白詰草の茂みへと膝をついてしまう。洗ったばかりの服が、と思わず嘆きたくなったが、次の瞬間笑い声と共に小さな手が伸びてきて、ルフレの頭に何かを載せてきた。

「お母様、にあいます!」
「?……あら、これって」

ルフレの頭には一回り大きかったそれはずるりと目の高さまで落ちてきて、一度外してみるとそれは白詰草の花冠であった。多少歪に結ばれているものの、可愛らしい花がしっかりと編みこまれている。

「セレナに教えてもらったんです。おんなのこならつくれてあたりまえ
だって。でも一人じゃ、どうも上手くいかなくて……」

マークとお父様に手伝ってもらったんですよ、そう言って頬を赤くしはにかむルキナと、草の汁で緑色になった指を得意げに見せるマーク。そして手持ち無沙汰なのか、シロツメクサの花を左手でくるくると回しているクロム。子供達に混じって花に囲まれている夫に思わず吹き出すと、「なんだ」とじろりと睨まれてしまった。笑みを堪えきれず彼から目を逸らす。繊細な花冠を崩さないよう、そっと持ち直してルキナに向き直った。

「なんでもないでーす。それにしてもルキナ、これだけの大きさの物を頑張りましたね」
「えへへ、お母様にあげたくて」
「ここがねえさんで、ここがぼくがやったとこ!あ、このガタガタなとこがとーさん!」
「そういう余計なことは言うなマーク」

クロムは憮然とした顔で息子の額を指で弾き、「うひゃ、いたいですとーさん!」とマークは大げさに肩を竦めた。

「子供の頃、リズとマリアベルに付き合って作ったことがあったが、その時よりはマシに編めたんだからな」
「ふふ、その時はもっとすごいものが出来たんでしょうね」
「ああ、なんだかよくわからない団子みたいな塊になって、解けなくなった」
「うわぁ、とーさんぶきよー!」
「……そこまで行くと、一種の才能に思えます」

唖然とした顔のマリアベルと呆れ顔のリズが容易に想像できてしまいルフレは口元を押さえてくつくつと笑った。涙が出るまで腹を抱えているマークは勿論、笑っていいものか戸惑っていたルキナも母の笑みにつられてふきだしてしまう。
照れたのか、クロムは藍髪をくしゃくしゃと掻きあげる。そして未だに笑い続けているルフレの右手を強引に取ると、薬指に何かを嵌めてきた。

「俺でも、手伝っているうちにこれくらいは作れるようになったんだからな」
「クロムさん、これは」
「指輪、のつもりだ」

ルフレの指に嵌められたもの、それは一輪の花と四葉があしらわれた草の指輪だった。やはり少し歪でちぎれている部分もあったが、途中で分解することもなくしっかりとルフレの指に巻きついている。

「お父様、凄く頑張って作っていたんです」
「ルキナねえさんにおしえてもらってたよー」
「お前たち、そういうのは母さんに言うなと!」

赤くなったクロムと、彼が作ったという指輪を交互に見る。かつて暗愚王や覇王、そして邪竜と戦った聖王が血眼になって四葉を探し、娘に教わって指輪を編んでいるとは誰が想像できるだろうか。
 結婚した時に貰った紋章入りの指輪は、公務の時以外はなくさないようにと鎖に通してネックレスとして首にかけている。永遠の誓いとして渡されたそれも嬉しかったが、今こうして嵌められた指輪も同じように愛しかった。
 それは金の指輪と違って、すぐに枯れて朽ちてしまう儚いものだけど。姉の急逝から王位を継ぎ戦いの日々に明け暮れ、平和とは何か悩んでいた不器用な青年がようやく作り出すことが出来た、かけがえのない物なのだ。
邪竜の器の証しであった不気味な痣が消えて、手袋をする機会がめっきりと減ったルフレの指に納まる新緑の契。そして頭を飾る皆の想いが込められた花冠。数刻もすれば変色し、しなびてしまうだろうけど。それでも一刻も長くそのみずみずしさを保てるよう。再び眠りについた神竜に祈りを捧げると、ルフレは大きく腕を広げ愛しい者たちに抱きついた。

「ありがとう、クロムさん。ルキナ、マーク……」

3人纏めては流石にこの腕には入りきらなくて、しかしルフレの意図を察したクロムが、向かい側で子供達を挟み込むようにぎゅっと抱きしめる。

「わ、くるしいよっ」
「お父様お母様ったら!」

くすぐったそうに顔を見合わせて笑う子供たちの鈴のような声が心地よくて、彼らの肩に頬擦りした。
今はまだ小さな肩にも、いずれ国を背負う為の重圧がのしかかってくるのだろう。未来から来た子供達と違って絶望に満ちた世界にはならないとは思うが、それでも人が人で有り続ける限り争いは目にすることになるだろう。
それでも。
ルフレは彼らの肩越しに夫を見る。クロムはルフレの視線に気づくと、澄んだ青い瞳を細めて微笑みかけてきた。

――そうだ、彼という強い光が傍にある限り。私はこの子達を、この国を守る策を生み出すことが出来る。

四葉の指輪が嵌められた薬指に、クロムの少し無骨な指が絡まる。それに応えるよう、ルフレもしっかりと彼の目を見て微笑み返した。
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