私には珍しく封印ED後のお話です。
性描写が含まれている為、18才未満の方の閲覧はご遠慮ください。
性描写が含まれている為、18才未満の方の閲覧はご遠慮ください。
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小さな雷鳴が聞こえる。
窓に伝う雫を見つめ、朦朧とした意識の中ルフレは耳を澄ました。
雨雲は去り、雲の切れ間からは青空が覗いている。それでも千切れた鈍色の雲はまだ浮かんでいて、遠くへ雷雨を届け、景色の一部は烟って見えた。
イーリスにとっても、この雨は作物を育てる恵みの雨だ。だというのに気分は晴れず、シーツから抜け出して雫が伝う硝子にそっと額を当てる。火照った身体には丁度いい冷たさだ。
――これでよかったのでしょうか。
ふわふわと熱を帯びている肉体とは対照的に、ルフレの心は重く、鉛のように沈殿していた。
ギムレーは封印された。ペレジアで再び、物言わぬ岩山と化しその身体を横たえている。
クロムとルフレは祝勝ムードもそこそこにイーリスへと戻り、諸国と連携して戦乱で荒れた国を再建していた。共に戦った者たちの協力もあり、戦いで疲弊した国土はみるみると復興してきているのが窓の外から見える景色からもわかる。
正式に聖王としての儀式を終え、夫クロムは周りの支えもあり立派な王として平和への道を歩みだした。再会した赤子ルキナも、日毎に成長し愛らしい笑みを浮かべ癒してくれる。つい最近言葉を喋るようになり、城内を沸かせたのだ。初めての言葉はやはりクロムを呼ぶ声であり、もうすぐ母である自分を呼ぶ日が来るのだろうと今から待ち遠しい。
それでも、ルフレの心からはこびり付いた陰りが取れない。誇らしく愛しい夫と可愛らしい娘が傍にいてくれているというのに、己の手の甲を見る度に暗雲が立ち込めるのだ。
邪竜は封印されたが鍵たる器の血は残り、受け継がれていく。ルキナ、そしていつか生まれるだろうマークの子供のそのまた子供、さらにその先の子孫は、再びギムレーとあいまみえる可能性がある。
果たして、その時が来たら彼らは勝てるのだろうか?
手を握り締める。硬質な硝子の感触に身震いしながら、ルフレは目を伏せた。
どんなに悲劇を語り継がせようが、人は忘れる生き物だ。その隙を付き、狡猾な邪竜は静かに目覚めの時を待っているのかもしれない。ファウダーは死に、ギムレー教団は瓦解したとはいえ邪な志し、或いは破滅への願いを抱く者は潰えた訳ではないのだ。
今回はなんとか勝てたが、それは未来から来たルキナ達、そしてルフレの中におぼろげながら邪竜と化した自分自身の記憶があった為だ。何か一つ噛み合わなければ、未来と同じようにこの世界も滅びへの道を辿っていたのだろう。絆が手繰り寄せた奇跡だが、次回も上手く行くとは限らない。
――私は、間違えてしまったのかもしれない。
昨夜見たルキナの健やかな寝顔、そして未来から来た娘が涙ながら剣を突きつけてくる姿を思い返し、唇を噛む。
自分が犠牲になれば、愛しい彼らの子孫が悲しむ憂いはなくなったのだ。現にルフレは直前までギムレーに手を下そうと心に決めていた。……例え夫の気持ちを裏切り、悲しませることになったとしても。
しかし出来なかった。死というものに対する恐怖、そしてクロムの声に怯んでしまったのだ。
(もっと生きたい、生きて彼の傍にいたい)
足を踏み出そうとした時に一瞬だけ気を取られ、次の瞬間もう一人の自分は神剣に薙ぎ払われていたのだ。
「ルフレ、起きていたのか」
背後から声をかけられ、振り向こうとした瞬間抱き竦められた。
クロムの青い瞳はまだとろりと快楽の余韻を残していて、眠そうに濡れた睫毛を瞬かせている。
「起こしてしまいましたか?」
「いや、気にするな。幾ら昨日激しかったとはいえ、流石にこの時間まで寝ているのもな」
「激しかったのは誰のせいですか?」
髪を掻き分け、首筋に唇を寄せてくる夫の行為がくすぐったくて、しかし窓に手をつかれて逃げ場はない。昨夜の余韻を引きずっている肌はあっという間に快楽へと変わり、口からは笑い声ではなく甘い声が上がってしまった。
「ゃ、だめですって。誰か来たら」
「今日は休暇だ、緊急でなければ人を近づけるなとフレデリクにも伝えてある」
「用意がいいことで……んっ」
薄い皮膚に最初は触れているだけだった唇はやがて舌で舐めあげてきて、その度に肩を震わせ、ルフレは窓に身体を押し付け夫の戯れに耐えた。
耳朶を軽く食まれ、舌を這わされる。普段は情熱的ではあるものの行為自体は淡白な彼にしては執拗だ、と半分とろけかかった意識で考えていると、唾液で濡れた耳元で囁かれた。
「何を考えていたんだ?」
奥底を揺らがすような低い声。吐息を吹き付けられ背筋を震わすと共に、彼には見透かされていたのだと目を細める。
「貴方に隠し事は、できませんね」
「当たり前だ。なんたって半身、だからな」
「ふふ……そうでした」
邪痕が刻まれた掌に、逞しい彼の手が重なった。
なるべくクロムがいる前では顔に出さないようにしていたのだが、変なところで察しが良い彼のことだ。気を遣わせてしまっただろうか、振り返ろうとした瞬間項を強く吸い上げられた。
「ひゃっ」
「お前だけが背負う必要はないんだ。例え、それが一番簡単な道だったとしても……お前がいないと意味がないんだ、ルフレ」
だから俺は後悔していない、そう言ってクロムはルフレの髪を梳いた。
こうして何度彼に慰められてきたのだろうか。
その度満たされ、それでも納得できていない自分がいて。
あの時、彼より一歩早ければ。自分に勇気があれば。
甘やかされる度に胸が疼き、幸せ過ぎる自分が許せなくて負の感情に溺れてしまうのだ。
「クロム、さん、私」
髪に絡められていた指が、辛うじて身に纏っている薄い夜着越しに触れてくる。胸のラインにそってゆっくりと撫でられ、ルフレは消えることない後悔と共に熱い息を吐いた。
もう過ぎたことだ、ルフレには最早どうすることもできない。
ただ信じるしかないのだ、未来の子供達が築く平和を。
だけど強い光と共に色濃い不安は常に寄り添っていて、意味のない悔いがキリキリと締め付けてくる。
だから、幸せでいっぱいにして欲しかった。もうそれしか見えない位に耽溺したかった。
遠くで雷が落ちたのか、一瞬薄暗い室内に眩い光が差し込む。
「沢山クロムさんを、ください」
窓に映る自分は、きっと彼の優しさにつけこんで狡く厚かましい瞳をしているのだろう。だが、そうでもしないと今後も過去ばかりみて、彼と同じ前を見ることができないだろうから。
クロムはそんなルフレに応えるよう、掌を強く握りしめて来た。
朝の清掃に来るメイドすら入れなかったから、ベッドは昨夜のままぐちゃぐちゃであった。
いつもならばどんなに情欲で乱れていても「整えましょうね」と言い出すルフレだが、今日はなにも言わない。為すがままベッドに横たえられ、切なげな瞳でこちらを見つめてくる。
「ルフレ」
呼びかけてみれば、彼女は応えるように首の後ろへと腕を回してきた。
引き寄せられ、口づけを交わす。しばらく柔らかい唇と触れ合い、うっすらと開いた口内へと割入ろうとすれば彼女から積極的に絡ませてきた。直接熱く湿った温度に触れ合いまぐわう。
喘ぎに近い吐息と水音、シーツが擦れる音だけが響く部屋。あんなに昨夜吐き出した情欲はあっさりと高まり、口づけはそのままにクロムはルフレの夜着を捲り上げた。
戦争を終え、執務に関わることが多くなった為か以前よりふっくらとした胸。「また訓練しないと」とたまに大きな独り言を言っている妻だが、これくらい柔らかい方が抱き心地がいいとクロムは内心思っている。口に出したら「デリカシーがない」と怒られるので言えないのだが。
柔肉を楽しむよう掌で包み、押しつぶしてしまわないようにそっと掴む。口づけに夢中だったルフレは足を震わせ、新たな快楽を享受するかのように小さな声で喘いだ。
「んっ……」
長かった口づけを終わらせると、ルフレは口の端から溢れた唾液をそのままに物欲しそうな声で啼く。餌を待つ雛鳥のようだ、とクロムは笑い、彼女の頭を撫でて愛撫を続けた。
胸元に口を近づけると、昨日身体に散らした痕がよく見える。暫く消えないように強く吸えば、ルフレはくすぐったそうにしながらも抱き寄せてきた。ふかふかの胸に顔を包まれ、その暖かさと甘い香りにクラクラとしてしまう。戯れのように少し大きくなり始めた胸の頂きを口に含み、舌で転がした。柔らかさと熱を堪能しながら彼女を食めば、くすぐったそうな声からだんだん切なげな喘ぎへと声のトーンが変わっていく。
昨晩はがむしゃらに体を重ね合わせたが、たまにはゆっくりと触れ合うのもいいかもしれない。――いつ敵襲があるかわからないあの頃とは違い、これからはずっと一緒にいられるのだから。
そう丁寧な行為を心がけようとするも、この性分のためか昂ぶりを律するのは未だに不得意だ。
それまでされるがままだったルフレがふと身じろぎをし、下着の上からでもわかるくらいに膨らんだ自身に触れてきた。
「クロムさんったら、あたってる」
「む」
昨夜あれほど精を吐き出したそこをまさぐられ、腰に来る快楽にクロムは顔を顰めた。悪戯に成功した子供のように少しだけ意地悪い笑みを浮かべているルフレをジロリと見るも、撫で擦るような手の動きに身体は正直なもので、ますます大きくなってしまう。
「こら、ルフレ。まだ前戯中だろ」
「……早く欲しいって言ったら、はしたない女って怒ります?」
じっとこちらを見つめてくるルフレの瞳は蜜のように蕩けているが、何処か仄暗い哀切さが滲んでいて心臓がドキリとする。艶めいた呼気を零す唇に欲は刺激されていくが、同時にこちらの胸を締め付けるような憂いが差し込んできた。
あの時、ギムレーに止めを刺そうと歩みだしたルフレを止めた日から。傍にいて笑っているというのに、ふとした瞬間に何処か遠い所をみていることが多くなった。
誰が考えても分かることだ、一人の犠牲で諸悪の根源を滅ぼせるのならば、それが正しいということくらい。
だがクロムはどうしても許せなかった。その一人に全てを押し付け、安寧を得ることなど。
ましてやその人は大切な人だったのだ。もう何も失いたくない。
例え愚かだと言われようとも、リスクを犯そうとも……ルフレと共に生きていたかった。
だから思わず名を叫んだ。そうすればきっと、迷いながら進む彼女が立ち止まってくれると確信があったから。
結果的に彼女を悔恨の沼に捉えてしまうことになったとしても、クロムの心に後悔はない。
その苦しみを分かち合いたい。そして、子孫達にその想いを繋げて行きたい。
きっと自分達の因子を受け継いだ子供達ならば、彼らの大事な物を守る為に何度でも邪竜に立ち向かってくれると信じているのだ。そしてその想いを繋げて未来に託すことこそ、自分が望む平和な世界なのだから。
「ルフレ」
ルフレの邪痕が刻まれた手をとる。聖痕のように決して消えることがないそれを見て、ルフレは顔を顰め不安そうな目でクロムを見た。
「これがなければ、俺はあそこでお前と出会えなかったかもしれない。だから、不謹慎かもしれないが感謝しているんだ。……これごとお前を、愛してる」
手の甲に口付ける。そして舌を出し、ギムレーを模しただろう痣をゆっくりとなぞった。
「ゃ、クロムさん」
「だからお前は、俺だけを見ていればいい」
「クロム、さん……」
「一緒に生きよう、運命を変えることができたのだから、俺たちならばきっとこれを正しく受け継ぐことだって出来る」
気にしている部分を触れられ、生娘のようにビクビクと震えるルフレの太腿を撫でながら、クロムは手の甲への愛撫を続けた。
「お前がいたから、俺はここまで進むことができたんだ。だから、今度は俺がお前の傍にいる」
「私、わたしは……」
「乗り越えられるさ。俺とお前の子供なら」
ルフレの腹部にそっと触れる。涙で濡れた瞳が見上げてきて、言葉になっていない嗚咽を漏らした。
――昔、迷子になった時に姉さんと俺を見つけた時のリズと同じ顔をしている。
普段気丈で、時に図太く振舞う彼女がクロムにしか見せないだろう顔。もっとそんな彼女の弱さを晒して、打ち明けて欲しい。
姉が死んだと思って自暴自棄になり、情けない所を沢山見せてきた。その時手を差し伸べ立ち上げてくれたのは、ほかでもないルフレだったのだから。
手の甲から口を離し、しっかりと手を組み握り締める。ルフレは最初快感のためなのか、それとも躊躇している為なのかピクリと指を動かしたが、安堵したのか振り切ったのか、次第に指を折りクロムに応えた。
「わたし、クロムさんを愛してます」
「ああ、知っている」
だから、信じてもいいですよね?
ルフレがそう囁くよりも早く、クロムは唇を奪った。当然だと言わんばかりに息を奪い、彼女の下着に手をかける。
ルフレが呼吸を求めて小さく開けた口から声が溢れた。しかしそれすらも貪るように舌をねじ込み、すっかりとぬかるんでいた秘所へも猛る己を押し入れた。
彼女の胸が深く上下する。しかし手はクロムを押しのけようとはせず、しっかりと握り締められたままだ。
花が解けるように迎え入れてくれる体内。最も感覚が研ぎ澄まされた部位を擦りつけ合うことで酔にも似た陶酔感が広がり、しかしそれは満たされることなくもっともっと欲しいと際限なく膨れ上がっていくのだ。
「は、ふ、ぁっ」
顎を伝い落ちていく唾液にこれ以上は流石に無理かと悟り、ルフレの口から舌を抜く。空気を求め彼女の胸がふるりと震え、しかし呼吸は次の瞬間淫らな声へと塗り替えられていった。
律動で絹のシーツがますますたわんで行く。火が付いた身体はとどまることを知らず、ルフレの濡れた中をもっとかき乱していった。
「ゃ、クロム、さんっ」
時折勢い余って引き抜いてしまい、折角だからもっと蜜をまとわせようと彼女の入口に挟みこんで擦りつけると、もどかしさの為か彼女が悲鳴を上げた。早く戻って欲しいといわんばかりに腰を浮かせ、クロムを求めようとする妻が愛しくて仕方がない。敏感な突起を己で弾いてから挿入すると子猫のように鳴いて寝台に身を埋めた。
蕾が花開いていくように、どんどん素直になって痴態を晒していくルフレ。理性も懊悩も剥いで本能で向き合えば彼女はギムレーの器ではなく、クロムにとって大事な女でそれ以上でもそれ以下でもない。
――口ではなんといっても、俺はただ、ルフレを失いたくなかった。それだけなんだ。
王としては問題ある考えなのかもしれない。ただクロムという個人の男は、彼女というかけがえのない存在を手放したくなかった。この手でずっと咲かせ、傍におきたかった。
足を絡ませ、快楽をより得ようと腰を動かし胸元に口付けてくるルフレを見下ろしながら、クロムは黒い波濤が胸の内で荒れ狂うのを感じる。
きっと聡い彼女ならばこの醜い気持ちに気づいているのかもしれない、それでも手放したくなかった。何を言おうと引き止め、彼女の真髄まで貪り交じり合いたい。
――例え、世界や愛しい彼女に陰りを落とす結果になったとしても。
遠くでまた雷が光った。それでも音は先ほどよりも遠のいていて、いずれ光も気づかなくなるのだろう。
互いの体液と動きでグチグチと淫靡な音は益々増して行き、その音でまた理性が崩れていく。
それでもいつかは高みに昇りつめてしまうもので、己の限界が近くなってきたのを悟ったクロムはルフレの中に精を出すため腰の動きをより早めた。かき回すような漫然とした動きから、最も感じる部位を集中的に穿つ攻めにルフレのぬかるんだ蜜壷は引き締まっていく。それまで甘く蕩けてだしているかのように見えたルフレの瞳孔も少し狭まり、口からはより艶めいた悲鳴が溢れた。
「ひぁ、も、だめぇッ」
喉を反らせ、はしたない声を上げるものの手はしっかりと繋いだままだ。まるで自己をつなぎ止めるかの様に、手の甲を握りしめてくる。
それと同時にルフレの中が蠢き、今にも達しそうなクロムをきつく包み込み締め上げる。その熱さと思考を焦がす快楽に声を漏らし、彼女の胎内まで犯すよう精を吐き出した。
汗がぽたぽたと落ちる。ルフレもまた息を荒げ、波紋が広がっていくかのように腹部を何度も震わせた。
「これまで、私達何回したんでしょうね……」
暗雲は、随分と遠くへ行ってしまった。
蒸し暑く気怠い昼下がり。何もする気がしなくて裸のまま寝そべり窓を見つめていると、同じく何も身に纏っていないルフレがのしかかってきた。じっとりとかいた汗で首筋に髪が張り付き、何とも言えない妖艶さを漂わせる彼女はクロムの腹部を下になぞると、精で汚れ幾分とおとなしくなったクロム自身に触れてくる。
「まだこれからも増えるだろ。マークもまだ生まれてきていないし、俺は3番目も見たい」
「そ、それはそうですけど……もう、相変わらずムードの欠片もないんですから」
「お前だって大概だろ?初めてのころは引っ掻くは泣くわでムードどころじゃなかったぞ」
「それは貴方が勢いで押し倒してきて覚悟があまりなかったせいですー」
欲を吐き出した為か幾分と理性的になったせいか、軽口が飛び交い二人してクツクツと笑った。
まだ聖王を継ぐとは夢にも思っていなかった自警団団長と、行き倒れの記憶喪失軍師。よくぞここまで来たと溜息をつくと、それまで戯れのように撫でていただけのルフレがいきなりクロムを口に含み始める。
「おい、ルフレ……」
「わらひ、たくさんほひいって、いいまひたよね?」
精で汚れたそこを丁寧に舐めながら笑う妻に、クロムは不覚にもドキリとする。
そうだ、彼女はただほしがるだけの女ではない。時に大胆に、したたかに求める時だって今までもあったのだ。
蜂蜜色の瞳は朝方窓を見つめていた切なさが消え失せ、戦場で勝ち戦を見るような自信に満ちたルフレのそれだ。もう吐き出す精がないくらいに出したそれは彼女の口淫であっさりと元気を取り戻し、クロムは己の単純さと妻の強さに肩をすくめ、「もう少ししおらしいままでもよかったんだが」と小声で口走ってしまった瞬間、背を駆け上がるようなチリリとした痛みが走った。
「っ!おいこらルフレ、今わざと歯当てただろ!!」
「気のせいですよ、それよりもっとしましょう?明日からまた公務なんですから」
またたっぷり書類をやってもらいますからね。
そうさらりという妻にクロムは溜息をつき、「お前には叶わないな」と彼女の髪を梳いて苦笑いを浮かべる。
口から離し、クロムをさらに高ぶらせようと手を動かすルフレは憂いを払い、向日葵のように笑っていた。
窓の外で、日差しが当たって水たまりが気化して遠くが靄かかってみえた。この靄が晴れれば曇りなき青空が見えるのだろうと、ルフレは夫を弄りながら目を細め笑う。右の掌が何かいいたげにジリッと疼いたように感じたが、気にせず愛する者に集中しようとじっとりと湿った髪をかきあげた。
彼の隣りで笑って、己の血に流れる憎らしい邪竜と共に生きよう。
きっと子供達は彼に似て何事にも負けぬ意志と光を持っているに違いないのだから。
じっとじとの仄暗い話を書きたくて書いたらなんだか自分でもよくわからなくなってしまいました…
封印EDは後暗さはあるけれど、俺たちなら乗り越えられるはずみたいな希望を感じるのがいいですね、ほぼノーリスクでギムレー消滅させられる犠牲EDのせいでいまいちアレな気もしますが。
何度だって聖王の血を引くものが倒してやるってセリフが好きです。
風に乗って花弁が舞い込み、白い湯気をあげる温泉へと落ちていく。
湯ごとそれをすくい上げ、ゆらゆらと揺れる薄桃を観察しながらルフレは一人呟いた。
「はあ、温泉も今日でおしまいなのですね」
式典と視察という名の観光も終え、ルフレ達は明日には帰路につくこととなっている。祖国イーリスも勿論好きなのではあるが、これからの長旅を考えるとやはり気が重い。何より、ソンシン名物である温泉に入れなくなると考えると、少し寂しく感じてしまうのだ。
異界の紅葉に囲まれた温泉も良かったが、満開の桜を眺めることができるソンシン迎賓宿の露天風呂も異国情緒に溢れていて、思わず溜息をついてしまう程美しかった。
昨日までは子供達と未来から来たルキナと共に入っていたのだが、「お母様もたまにはゆっくりしてください」と気遣われ、個人用の一回り小さな温泉にこうして浸かっている。賑やかな風呂も楽しいのだが、小さなマークが大浴場でふざけて泳ぎだすのを止めるのに大変だったのだ。ルキナの心遣いが有難い、と足を伸ばしながらルフレは温泉を堪能する。
(イーリスにも温泉が出ればいいのに、なんて)
書物を読み漁る癖がある故目の疲れや肩こりが人一倍多いと自覚しているから、全身の凝りを解す効果があるというこのお湯が尚更名残惜しく感じてしまう。これだけ潤沢にお湯を使えるのは贅沢なことだ、としみじみと感じ、せめて今夜は存分に楽しもうと花びらが浮かぶ湯の中へと更に深く浸かった。その時、こんこんと流れるお湯のせせらぎしか聞こえなかった風呂場にガラリと大きな音が響く。
――誰だろう、もしかして小さなルキナとマークが探しに来たのだろうか?
疑問に思い振り返ると、湯気の先に見えた大きな人影に言葉を失う。
「……」
「……えっと、なんだ、その」
そこには辛うじて腰にタオルを巻きつけているものの、ほぼ全裸に等しいクロムが居心地が悪そうに立っていた。
思いがけない人物の登場に、ルフレは言葉が出ずしばらくただ目を瞬かせていた。しかし自分が一糸纏わぬ姿でいることに気づき、思わず胸を片手で抑え仰け反る。
「ま、待て!誤解だルフレ!!」
「きゃあああ!」
次の瞬間スコーン、と小気味のいい音が風呂場に響き渡った。
「……夫に対してこの仕打ちはないだろう」
「ご、ごめんなさい…反射的に、つい」
憮然とした顔のクロムの広い背中を流しながら、ルフレは平謝りしていた。
咄嗟に投げた風呂桶は見事に額へ命中し、鏡に映っている僅かに赤くなったそこを見て申し訳なさで一杯になる。
まだ付き合ってもいない、むしろクロムを異性とさえ意識したことがなかった頃。さっきとは逆にルフレがうっかりと彼が水浴びしている時に天幕内へと入ってしまった事が有り、思わず手近にあるものを投げつけたことを思い出しうな垂れた。あれも自分の確認不足だった、と苦々しい顔をしていると、「裸なんてもう見慣れているだろうに」と鏡越しにクロムが笑ってみせた。
「そう気に病むな。昔のことを思い出して楽しかったよ……あの時も、俺がうっかり天幕に入ったり入られたりしたな、懐かしい」
「あの時のことは悪かったですってば」
「ハハハ、しかしあいつらには一杯食わされた」
「ええ、まさかルキナ達が共謀していたなんて」
クロムの話を聞けば、「父さんもたまには一人でゆっくりしたいでしょ?僕がフレデリクさんになんとか言っておきますから、父さんはこちらに!」と半ば強引に連れてこられたという。
ルキナが以前混浴に興味を示していたが、まさか行動に移されるとは。それも二人きりで。
泡立った背中をお湯で洗い流し、「もういいですよ」と仕上げに濡れていつもより艶やかに輝く藍髪を梳いた。
「だが、お前と二人きりでゆっくりする機会も最近なかったから丁度良かった」
「そうですね、明日からまた船旅ですし。折角だから夫婦でゆっくりしましょう」
水を滴らせた夫に手を差し伸べられ、首筋を優しく撫でられルフレはくすぐったさに笑う。
「お前の背中も流そうか?」と小首を傾げてくる夫にもう自分で洗ったから、と顔を赤くして首を振れば、少しだけ残念そうな顔をされた。
*
「またやられたな」
「ええ、やられましたね……」
温泉から上がり、二人仲良く部屋の前まで戻ってきた時。子供達の声で賑やかだと思っていた大部屋は静まり返っており、不思議に思って襖を開けばそこはもぬけの空だった。
「『父さん、母さんへ。貴方達の可愛い子供は僕たちが預かりました。明日の朝無事に返しますから今晩は覚悟してください by Wマルス』……もう、あの子達ったらいつからこんなにませていたんですか!」
机の上に置かれた手紙を読み上げ、ルフレは頬を赤らめて額に手を当てた。
前もってこのことを計画し、サイリにも話を通したのだろう。普段は諌める側であるルキナも、両親の仲を深める為ならばとマークの案に追従したに違いない。冷静で真面目な姉だが、以前紐のような下着を危うく渡されそうになったことがあるのだ。ご丁寧にぴったりと二つ寄せられている布団を見て、彼らの本気を悟り溜息をついてしまう。
「流石は軍師の子とでもいうべきなのか、これは」
「うう、ここまで準備万端だと逆になんだか恥ずかしいですよ、私」
あの二人は夫婦間の夜の営みについてどこまで知っているのか……考えただけで、恥ずかしさで目眩がしてくる。これには流石のクロムも羞恥心を感じたらしく、「あいつら…」と呟き頬をかいていた。
「まあ、あいつらなりに考えてやってくれたことだろう。マークはともかく、ルキナは無理に連れてきてしまったからな」
「そうですね……恥ずかしいですけど、この厚意は有り難く受け取っておきましょうか」
この世界の自分自身、そして両親に配慮してか同行を渋っていたルキナを、護衛として半ば強引に誘ったのはルフレ達だ。気を使わせてしまっていたら申し訳なく思い、イーリスに戻ったら子供達の相手までしてくれた彼らにちゃんと感謝しなければ、と改めて考える。
ともかく子供たちの厚意を無駄にする訳にもいかない。
「と、取り敢えずお茶でも飲みましょうか?」
「そうだな、そうしよう」
いつもよりぎこちなく微笑めば、クロムも同じように照笑いを浮かべた。
ソンシン特有の紙が貼られた、柔らかな光を放つ照明に照らされて暗い室内がなんとも言えないムードを生み出している。
昨夜まではなんとも思っていなかったのに、こうして夫婦向かい合って見てみると異国の照明効果も相まってか、相手がいつもよりしっとりと艶やかに見えてしまう。眠たいのか、珍しくぼんやりとしているクロムの見慣れているはずの横顔を、ルフレは不思議な気持ちで眺めていた。
じっと見つめていたことに気づいたのか、青い瞳がこちらの姿を捉えてくる。気恥かしさを感じて思わず布団を被れば、「なんだよ」とむっとした声をかけられた。
「べ、別になんでもないです……」
「そうは見えないが」
指摘されると余計に羞恥心が増して、クロムの視線から逃れようと身を転がそうとするも逞しい腕に掴まれて阻まれてしまう。
見とれていたなんていえるわけない、と上目遣いで訴えかける。クロムはそんなルフレの様子に口角を上げると、腕を引き寄せて抱きしめてきた。
「いつもよりお前、温かいな」
「温泉のお陰で血行よくなったからでしょうか?ソンシンに来てから、肌の調子もいつもよりいいんです」
「ん、本当だ。すべすべしている」
「ってクロムさん、どさくさに紛れてどこ触っているんですか」
浴衣の隙間からごく自然に入ってきた手を、ルフレはピシャリと叩いた。妻のつれない態度にクロムは少しだけ渋い顔をしたものの、めげずにもう片方の手で触ろうとしてくる。
「しないのか?」
濡れた瞳で見つめてくるクロムに心臓の鼓動が跳ね上がった。悟られぬように目を逸らすも、再び潜り込んで来た手に胸を触られ、早まっていく鼓動に気づかれてしまう。
「ここでしたら、あの子達の思う壺みたいじゃないですか……」
「俺はお前の意志を聞いているんだ」
「う……」
「ちなみに俺はしたい」
「わ、わざわざ言わなくていいです!」
異界でサイリから一通り習ったものの、やはり着慣れていないためか。浴衣の帯はあっさり緩んでしまい、布団の中で揉み合っていた為に互いに素肌を晒し合っている。はだけた浴衣から覗いていた、むき出しになった太腿を撫でられて肌が粟立った。
ここに来てから子供たちもいる手前、クロムと肌を重ねていない。油をたっぷり染み込ませた芯に火が付けられたかのように、ルフレの身体はどうしようもなく熱くなって物欲しくなってしまうのだ。
クロムもそれをわかっているのか、掌全体を使って背筋を優しく撫でてくる。最初にした時に比べものにならないくらいに優しくなっている手つきに甘さを含んだ息を吐き、ルフレはコクリと頷いた。
「したい、です」
その言葉を合図に、全身を撫で上げていたクロムの手がすっかりとたるんだ帯へと伸びていく。
彼の瞳の奥に、獣じみた情欲を見つけて生唾を飲む。そして早く欲しいと言わんばかりに、ルフレもまた彼の帯へと手をかけた。
「む、んぐ……」
口を押し広げ、質量を増していくクロムの味に眉を顰める。それでも舌を止めないのは、ルフレが与える刺激に反応するもう一つの彼が、愛しくて仕方ないからなのだろうか。
しかし時折動きが止まってしまうのは、ルフレの下半身もまた彼によって愛撫されている為である。夫とはいえ、一国の王に奉仕されているという事実に言いようもない背徳感を覚え、自らが発している水音も相まってより感覚が高ぶっていくのだ。
「口、止まっているぞ」
「ぁ、だれの、せい、ですか……!」
身体のうちからゾワゾワと這い上がってくる快感に必死で耐えながら、先に達してしまわぬよう半ば意地になってクロムのものに舌を這わしていく。すました声で言っているが、彼もまた余裕がないことを知っているのだ。ツルツルとした先端を口に含み、音を立て口内へと埋めていけば彼が腹筋を引きつらせ、少しだけ動きを止めたのを感じた。
「おはえひ、れふ」
口に含んだまま、得意げに言って見せる。その言葉に煽られたのか、はたまた声の振動で感じたのか。一際大きくなったクロムをずるりと口から離すと、胴を抱えられそのまま組み敷かれた。
「言ったな、今夜は覚悟しろよ」
「ふふ、受けて立ちます。……いえ、やっぱり少しはいたわってください、帰れなくなっちゃいます」
「それはお前次第だ」
不敵に口元を歪めるクロムに嫌な予感がして、思わずルフレは逃げようとするも、のしかかられてしまい身動きできない。
汗ばんでいた太腿を掴まれ、大きく広げられた。愛液と彼の唾液で濡れたそこはしっとりと濡れており、もう受け入れる準備は万端である。
帯を取られ、衣装として意味をなしていなかった浴衣をクロムは脱ぎ捨てた。
柔らかい光に照らされ、二人の男女は見つめ合う。まだ乾ききっていない髪が首筋に触れ、ごく自然に唇が触れ合った。それと同時に熱いものが入口に当てられ、ゆっくりと侵入を開始する。
「ん……」
幾度と抱かれ、彼の形だけをしっかりと刻み込まれたそこは、淫靡な水音を立てて受け入れていった。舌も激しく絡み合い、飲みきれなくなり混ざり合った唾液が喘ごうとする度に零れおちて行く。
気を抜けばあっという間に真っ白に染まってしまいそうな思考を繋ぎ止めようと、必死で彼の首に手を回す。愛しい人と上も下も結ばれる快感は、何度行為を重ねようと薄れることがないのだと蕩けた意識の中でルフレは思った。
そして同時に、自分がいなくなっていた2年の間彼はどうしていたのだろうと疑問が湧いてくる。
ルフレがいない時クロムはどんなものを見て、どんなことを考えて、どんな思いで夜を過ごしていたのだろうか。
桜霞の中で見せた彼の表情を思い出す。きっと日中子供達を見失った時よりも、もっともっと不安で仕方なかったのだろう。長い時を生きる神竜ですら、戻ってくるという保証は出来なかったのだから。
半身だけど、その胸中の全てを知ることはできない。その時感じた絶望は今も彼の心にこびり付いて、永遠に離れることはないのだろう。それはルフレが思うよりもずっと深く、消えない傷として愛しい人を苛んでいるのだ。
――この選択を後悔していない。でも、もし逆の立場だったら。
押し入り、引き抜かれていく彼に翻弄される中、ルフレは彼にしがみつきながら考えた。
きっと世界は太陽を失ったように暗くなってしまうのだろう。心は冷たい土のように固まり、春が来たとしても、花の色も生命の息吹も感じられない程に。きっとクロムを殺した未来の自分も、その絶望と相まって邪竜と化してしまったのだ。
長い間触れ合っていた舌が引き抜かれ、こらえきれなくなった喘ぎ声が漏れ出す。より深くを穿たれ、狭まっていく器にクロムは睫毛を伏せ強くルフレを抱いた。
痛いとさえ思うほど、彼は強く抱きしめてくる。大切な人を失っても、王として人の上に立たなければならない意志と衝動の間で揺れ動かされる苦悩。それが彼を時折獣じみさせるのだ。
「くろ、むさ、」
「どうした?」
揺さぶられる視界の中で彼の名を紡げば、汗を流しながら応えてくれる。
王としてではなく、一人の男として見つめてくる夫の頬にそっと触れた。痣が消えた掌で。
「わたし、そばに、います、から」
クロムの傷に寄り添って生きたい。もう傷つけることがないよう、はぐれることがないよう。
どうしても別れなければいけない場面が訪れればまた同じ選択をするだろうけども。その時は
例え再び身体は離れたとしても、この魂は傍にいよう。彼がもう闇の澱みの中で、震えることがないように。
それまで無心に快楽を求めていたクロムが、子供のような顔をした。その目尻に浮かんだ涙は、生理的なものなのか、それとも心の痛みからなのか。震える指でそれを拭い去る。指を伝う熱い水滴が、彼に深く穿たれることで散っていく。
「ぁ、ひゃん!」
「あたり、まえだろッ……」
腰を掴まれ、今まで以上に激しく抽挿される。いつもより低い声で、余裕なく呟かれた言葉にゾクゾクと背筋が震え、ひっきりなしに甘い声を上げた。
「おまえが、世界が、なんといおうと……たとえ、愚王といわれようとも、おれは、もう」
「クロム、さ、ぁあッ」
「はなさない、ぜったいに」
ルフレの中のクロムが膨れ上がる。最も感じる所を何度も掠められ、彼に組み敷かれている足がピンと伸び魚のように跳ねた。
世界が薄桃の花びらで埋め尽くされるかのように、あっという間に何も考えられなくなる。制御が効かなくなった身体は彼を強く締め付けた。同時にクロムも達したようで、蠢く胎内に熱いものが静かに広がっていく感触を敏感になったルフレは感じ取った。
*
「見事なものだな」
「ええ、本当に……」
ショウジという紙を張った窓を開けば、月に照らされ靄のような桜が見えた。
熱く湿っぽくなった空気を換気しようと開けたのだが、予想以上に美しい光景にルフレもまたクロムの肩にもたれかかりながら眺めていた。昼の桜も美しかったが、夜の幻想めいた光景も美しい。しかしこの花ももう数日で散ってしまうという。サイリに説かれたショギョウムジョウという言葉の意味はこういうことなのか、と快楽の霞が残る頭でぼんやりと考えた。
「また、来れるといいですね」
「来れるさ。あいつらも連れて、今度はリズ達も誘ってみるか」
「みんなでお花見、ですか?ふふ、楽しそう」
「お前のまずい飯も持って、な」
「……クロムさんに言われたくないです。それに最近はちょっぴり鋼の味がするだけですから」
頬を膨らませてすっかりとぐしゃぐしゃになってしまった浴衣を引っ張れば、笑って肩を抱き寄せられた。ルフレも微笑んで彼にくったりとした背を預ける。
「今まで離れていた分、ゆっくりと取り戻させて貰うからな?」
「それは一生かかりそうですね」
「無論そのつもりだ」
「まあ、それは覚悟しないと」
窓から風に乗って、何処からともなくひらひらと花弁が迷い込んでくる。何気なしに掴み取ろうと手を伸ばし、その掌ごとクロムに包み込まれた。
手の中に納まる桜の花弁を見て、二人して笑いあう。クロムの顔は和やかで、こみ上げてきた愛しさからルフレは彼の頬にそっとキスをした。花が掠めるように、そっと。
本当は温泉エロスを書きたかったのですが、流石に他人様の家のお風呂(初期設定ではソンシン城でした)でやるのはルフレさんらしくないかな、と思いましたので普通に部屋でしっぽりと致しています。
ギャグベースで書くつもりだったので、ルキナの手によって物凄い下着が枕の下に置いてあったとか卓球して遊んでいたり枕投げしていたりする子供達という小ネタもばっさりカット。(そもそも異界じゃないから卓球はないはずだ)
親が致している場面を想像するのは子供にとって嫌なはずなのでしょうが、この姉弟は若い両親にテンションが上がっているのでしょう。…苦しい言い訳ですね。
オフ本も通して言えることなのですが、クロルフにとって周りが都合良く動き過ぎる展開が多くて自分でうーんとなっております。ただの舞台装置と化しているというか。自分でもなんとかしたい点ではあります。サイリとの会話も入れたかったなぁ…幼い頃のレンハとサイリを見てみたいです。
余談ですが、桜霞と共にこの話はオフ本の後日談という裏設定があります。
(本文四章から抜粋)
クロムはフレデリク達の看病の甲斐あってか思っていたよりも元気そうだった。ただ酔いはまだ残っているようだ。赤くなった頬を掻きながら、こちらをチラチラ見ては視線を逸らすことを続けている。
(やはり、私が来るのは迷惑だったでしょうか)
フレデリクとリズが申し合わせたようにタイミング悪く去り、二人きりではないという目論見が外れた今、ルフレは緊張で手紙を持つ手が震えていた。
以前のクロムだったらしっかりとこちらを見てくれるのに、逸らすということはやはり避けられているに違いない。理由を聞くのが恐ろしいが、いつかは聞かなくてはならないことなのだ。
――なにはともあれ、まずは用事を果たさないと。
挫けてしまいそうな心を奮い立たせ、ルフレはなるべく平静を装ってクロムにフラヴィアからの手紙を渡す。
恐らく明日からの行軍に関することだろう。クロムは真剣な眼差しで、文字の羅列を追っている。
――彼がこの手紙を読み終わったら聞かなくては。今の自分をどう思っているのか。嫌いになったのか、疎んじているのか。
決意をしたとしてもいざクロムを目前にすると怖くなり、ルフレは無意識のうちに震えを抑えるよう胸へ手を当てていた。
この心地よい関係が壊れるのが恐ろしくて仕方ない。今夜、何かしら二人の関係は大きく変わってしまうのかもしれない予感に、どうしようもなく不安を抱き、緊張が走る。だから少しでも長く手紙を読んでいて、と俯いて無意味な祈りを捧げていたのだ。だから、彼の様子が急変したことに気付けなかった。
「……どういうことだ」
居心地悪い静寂を切り裂く声に、恐る恐る視線を向ける。
見れば手紙を握り締め、こちらを睨みつけているクロムがいた。
「どういうことって?」
「傍にいてくれるって言っただろう。あれは嘘だったのか?」
クロムが何を言っているのかさっぱりわからない。
ただ彼が怒っていることだけはわかる。手紙の内容に関わることなのか、ルフレは憮然とした顔で答えた。
「ええ、確かに言いましたよ。私は貴方が貴方なりの平和を勝ち取る日まで傍に……」
全て言い終える前にルフレの右腕が強く引かれた。驚いて体勢を整える間もなく身体が傾ぎ、そのままクロムの元へ倒れ込んでいく。
「クロムさん、何を」
「行かせないからな、俺の下から去るのは許さない」
驚いていて身動きが取れないでいるルフレは寝台へ押し付けられ、クロムにのしかかられた。
影に覆い被され、視界に彼の空のような色をした青い瞳が映る。いつもならば清涼な色を称えているはずのそこに、黒い炎のようなギラつきが見えた気がした。少しだけ怯む
ものの、ルフレには何も後ろめたいことがない。
ここは強気に対応した方が良いと判断し、顔を引き締めて彼を睨みつけた。
「行かないですって…。いきなりどうしたというんですか、最近避けていると思ったら、こんなことをして。からかっているんですか?それともまだ酔っ払っているんですか?」
引き締まった身体をしているとはいえクロムは男だ、力では叶うはずもなくのしかかられて息苦しい。コロコロと変わる態度につい苛立ってしまい、ルフレは押しのけようと彼の逞しい胸板を叩いた。しかし反応すらしないでこちらをただ見下ろしてくるクロムに眉根を寄せる。
「俺がからかってこんなことをすると思うか?」
押しのけようとしたその時、手首を強く握られる。聞いたことのないような冷たく低い声にルフレはゾッとし、思わず反抗の手を止めてしまった。
――酔っているにしてもおかしい、クロムは力任せでこんなことをする人間ではないはずだ。
何が理由なのかわからず抵抗も封じられたルフレは、ただ彼の動向を見つめることしかできない。
「今でなくとも、お前は俺の元をいつか去るんだろう」
「それは……私は軍師であって貴方の所有物ではないですから。いつか、と言われればそうなのかもしれません。でも当分は、」
言葉は慎重に選んだつもりだったが、やはり理不尽な目に合っている不満が口に出ていてしまったようだ。クロムの目尻はますます鋭くなり、戸惑っているルフレ自身が彼の瞳越しに写って見える。
彼の大きな影が濃く迫ってくる。しかし追い詰められた獲物のように、ルフレはなにも出来ず、ただ彼の動向を伺うことしか出来ない。
「ならば、俺のものになればいい」
耳元に唇が触れるか触れないかの距離で囁かれ、ルフレの肌が粟立つ。聞いたことのないような掠れた声に、初めて彼が恐ろしいと思った。
ルフレの胸に何かが触れる。その感触に、緊張で縮こまっていた身体が小さく跳ねた。
「クロムさん、何をしてるの……?」
無意識に声が震えてしまう。問には答えずクロムは骨ば
った手を胸の膨らみに沿って、撫でるように動かす。
多少ぎこちなさは残しているが迷いのない動きに、ルフレの心には得体の知れない恐怖と疑念が急速に溢れていき、戦慄した。
――どうしてこんなことをする?
時折不安に感じるほど全てにおいて潔白で、誰に対しても平等に接するクロムに限って、こんなことするはずがない。そう彼を信じる自分が必死に目の前での出来事を否定をしている。
しかし現実は、ルフレの信じたいと縋るような想いを
尽く裏切っていく。クロムの手は弧を描くように胸部を撫でると、外套の隙間から覗くキャミソールの切れ込みへと潜り込んでいった。素肌に直接触れられた手の感触に鳥肌が立ち、背筋が震えた。明らかに性的な意味をもつ行為に、慌ててルフレは彼の手を抑えて首を振った。
「やめてくださいクロムさん、自分の立場がわかっているんですか!貴方は王族、不用意に関係を持つことは御法度だと……ッ」
ルフレの声に手が止まり、少しだけ安堵して影になって見えなかったクロムの顔を覗き込む。しかしその瞬間
止まっていたはずの掌が乳房を強く握りしめ、驚きと痛みに思わず声を詰まらせた。
「不用意なんかじゃない、俺はお前を自分のものにする為ならば、お前に軽蔑されても構わないんだ」
クロムの瞳の奥に、濃い闇を見た。それはエメリナを失った時に高笑いするギャンレルに見せた時の激情に似た、しかしもっと静かな分恐ろしく感じる怒り。まるで嵐の前の夜に似ている。
――あの手紙に逆鱗に触れるようなことでも書いてあったのか?
悪転していく状況の中、混乱する頭でそれでもなんとか解決の糸口を見つけようと、懸命に震える手をシーツ上に這わす。しかしそれが拒絶の意に取られたのか、クロムの左手で、惑う手はあっさり頭上に纏めあげられてしまった。ぎりぎりと痛みを与えられ、ルフレは唇を噛み締める。
「立場なんて関係ない、俺は……お前が好きだ」
思いがけない言葉に、痛みで顔をしかめていたルフレは目を丸くする。覆い被さっているクロムは苦しさを耐えるように眉を顰めさせ、絞り出すように言葉を続けた。
「お前が俺の隣にいてくれるのは、今まで当たり前のことだと考えていた。俺はもう、お前が家族になったようだと勝手に思っていたんだ」
「……」
「だけどルフレ、お前はどうなんだ?俺にはお前を縛る理由がない。お前がこの軍を離れたいと言ったら俺に止める権利はないんだ。そうだ、お前は俺のモノじゃない。血の繋がりもない。半身だと言ってくれたが、そんなもの所詮口約束だ。…俺は、お前との確かな絆が欲しい」
胸部に這わされたままだったクロムの右手に、力が込められる。掌で乳房を強く握り締められ、ルフレは息を呑む。しかしそれでも彼から視線を離すことが出来なかった。
「あまりにも近すぎて、お前の大切さに気付かなかったんだ。……だから姉さんみたいに失う前に、お前を俺のものにする、ルフレ」
「待って、待ってください!クロムさん……っ」
切なげに歪められた瞳が迫ってくる。そしてそのままルフレの言葉を奪うように唇に何かが押し当てられた。柔らかいそれが何かを確かめる暇なく驚きで僅かに開いた口から、生暖かいものが入ってくる。
生き物のように意志を持って侵入してきたそれは、ルフレのくぐもった声に少しだけ躊躇ったかのように動きを止めた。しかしすぐに口内をまさぐるようにゆっくりと粘膜へ触れてくる。
「んっ、ぅぅ……」
息を吸い取られているかのように苦しい。
それなのに、ぬるぬると掠める舌が口内を擦れる度身体が熱くなる。緩急をつけて揉まれる胸の感触と相まってルフレを未知の感覚へと誘うのだ。
戸惑い逃げ回っていたルフレの舌が、ついに囚われ吸い上げられた。熱いそれが重なり合い絡み合う感触に、肩がびくりと跳ねてしまう。薄く開かれた唇からは飲みきれなかった二人の唾液と、吐息とも喘ぎともつかない声が漏れ出た。
ようやく舌が引き抜かれ、下唇を犬のようにベロリと舐め上げられる。ルフレは霞がかった頭でなんとか呼吸をしようと胸を上下させるが、その頃にはクロムの手によってキャミソールがたくし上げられてしまう。外気に素
肌が晒され、その感覚に背筋を震わせた。
クロムにありのままの肢体をじっくりと見られている。彼の視線に耐え切れず、慌てて胸を隠そうとするも、両腕は彼により拘束されていた。せめてもの羞恥心で身を捩るも逃れることは到底出来ない。
「その様子だと、初めてか…?」
今日初めて聞いた気遣わしげな声に、羞恥と快楽で濡れ、伏せていた視線を上げる。
戸惑いで細められた青い瞳の奥を覗き見る。黒い炎のような怒りが随分と鎮まっているようで、代わりにそこにあるのは親を見失った子供のような寂しさだ。
その表情に、怯え惑っていたルフレの心が解けていく。
「は、はい。恐らくですが」
記憶を失っているので定かではないが、少なくとも今の時点では初めてだった。恥じらいつつ、歯切れ悪そうにそう答えれば、クロムは上気させていた顔を明らかに曇らせる。押し付けられていた両手首がふと軽くなった。拘束が解かれたのだ。
「俺が怖いか?」
先ほどとは一転して、壊れ物を扱うかのように優しく頬に大きな手を当てられた。不安に満ちた瞳が、縋るようにこちらをじっと見つめてくる。
(ああ、いつものクロムさんが戻ってきてくれた。)
その安心感で、乱れていた心拍がゆっくりと戻っていく。
「正直に言えば怖かったです。でも、今は平気」
「無理をしなくてもいい。俺はお前に男として最低のことをした。罵られても軽蔑されても仕方がない」
「クロムさん、違うんです。私、その…」
口から出そうになってしてしまった言葉を、冷静になれと呼びかける理性に気づき慌てて飲み込んだ。
今なら素直にこう思える、ルフレだってクロムのことが好きだ。きっと、初めて会った時からその輝きに魅せられていた。彼を拒むのは心が繋がり合っていない状態で抱かれたくないだけであって、本当は誰よりも近くで触れ合いたい。
しかし、それは本当にクロムの為になるのだろうか?
ルフレは身元がよくわからない。あるのは戦術と人殺しの技術のみ。そんな女がゆくゆくは聖王を継ぐ男の妻になっても良いのだろうか?彼の輝かしい道の妨げになってしまわないだろうか?
彼の告白は嬉しかった。傍にいても良いと、ルフレにとって心地よい言葉をクロムはいつだってくれる。
きっと今ここで親友として傍にいたいと言えば、優しい彼のことだ、異性の親友としていつまでも傍に置いてくれるだろう。ルフレが本当の気持ちを隠して仕えればいいだけだ。そうすれば、クロムは本当に自分にふさわしい妻を娶り、王として執政する為のより良い地盤を固められるはずだ。
(だけど……)
ルフレは空の頂点のような、澄んだ色の青い瞳を見つめ心が揺らぐ。
クロムの傍で、笑っている他の女性と彼女の子供を見て果たして心穏やかでいられるのだろうか?きっとこの想いを掘り起こされず、自覚さえしていなければ笑って見守れたのだろうけど……ここまで来てしまった以上今更無理だ。
――クロムが欲しい。その髪も瞳も身体も魂も余さず全部欲しい。
親友や軍師という都合のいい言い訳を剥いでさえしまえば、女としての単純な欲求がルフレの中を渦巻いていた。きっともう隠そうと思っても隠せないだろう。醜い心を綺麗事という嘘で塗り固めて彼の傍にいるよりは、いっそこの気持ちを吐露してしまった方が良いだろう。
「……私だって、クロムさんのことが好きです」
クロムの目が見開かれる。
ルフレはそんな彼に寂しげに微笑み、頬に当てられていた掌をそっと両腕で包み込んだ。
「きっと貴方が想っている以上に私は貴方のことが好き。初めて助け起こされた時から、貴方が欲しくて仕方なかった」
「ルフレ」
「でも、それだけじゃダメなんです。私には記憶がない、自分の生い立ちや身分だってわからない。そんな怪しい人間が、貴方の妻になれる資格があると思いますか?きっと祝福はされないでしょうし、貴方の目指す王道の妨げになるでしょう」
自分に言い聞かせるように呟くと、ルフレはクロムの手をそっと離させた。もうきっと、彼の親友としての純粋な目で見ることが出来ないだろうから。そっと目を閉じ
言葉を続ける。
「私は、貴方が紡ぐエメリナ様とは違った平和を見てみたい。…きっとそれは皆も同じ。だからイーリスに平和が訪れるまでは、貴方の傍に居続けます。だけどその先はダメです、私は貴方の道を邪魔したくないんです。
クロムさんの気持ち、とても嬉しかった…でも貴方はきっと戦いの前で興奮されているんですよ。一時の感情に流されないで、もう一度よく考えてください、そして本当に貴方が成すべき道を、」
ルフレが胸で温めていた言葉を最後まで言い終わらないうちに、唇が塞がれた。今度は触れるだけのキスだった。口元からゆっくりと動かされ、ルフレの唇を捉える。
心の隙間を埋めるように触れ合い温もりを伝えると、リップ音を立てて、それはゆっくりと離れていった。
「クロムさん、私が言ったことちゃんと聞いていましたか?」
「流されてなんかいない、立場なんかでお前を切り捨てて、何が王だ……!」
ルフレが言葉を発するよりも早く、クロムに強く抱きしめられた。引き離そうとしたが、彼の小さく肩が震えていることに気づいてしまったのだ。
「きっと苦労をさせるだろう、だがお前を非難するものは俺が許さない。大切な女一人守れない王なんて御免だ」
「……クロムさん」
「改めて言うぞ。ルフレ、俺はお前が好きだ。お前となら苦楽を共にできる、どんなことがあっても、絶対に乗り越えられる。だから、俺の隣にいてくれ」
今にも泣きそうな目で、しかしこちらを真っ直ぐと射抜くその言葉。クロムの嘘偽りないだろう想いが、ルフレが心の奥底にまで届いた。誰よりも知っていた。彼が嘘や同情でこんなことを言えるほど器用な人間でないくらい。
本当ならばここで振り切るのが、王に仕える軍師として正しいことなのかもしれない。しかし喉が震えてうまいこと言葉が紡ぎだせなかった。軍師や忠義や友情という鎖で必死に縛りつけていた「女」であるルフレの一面が彼の言葉に歓んでしまっていたのだ。
ずっと自分の心に嘘をつき続けていた。女として傍にいたいという自分を、浅ましいものと踏みつけ見ないふりをしようとしていた。だからティアモの言葉に耳を塞い
で、恋の輝きから目を逸らしていた。「親友」という都合のいい言葉で虚飾し、傷つかずに一番安心出来る位置を確保して落ち着かせようとしていたのだ。
もうクロムという異性を拒むことができない。飾られた言葉ももう思いつかない。軍師としての理性は、こみ上げてきた恋慕の上に焼け消えてしまったのだ。
クロムが好き。ただそれだけを伝えたくて、ルフレは彼の首に腕を回し、応えるように抱きついた
「私も、貴方の傍にいたいです。ずっと」
いつのまにか頬から一雫涙がこぼれていた。一度流れ出すとそれは堰を切ったように止まらず、心の壁がヒビを作って崩れるように、ポロポロと零れ落ちて行く。
「好きだから…大好きだから、貴方の道の憂いになりたくなかった。でも、私もう無理です。貴方の隣に違う女の人がいるなんて、考えたくもない……」
「ルフレ、」
「私、私…記憶ないですし、女らしくもない。美味しい料理のつくり方も、礼儀作法もわからないんです。きっと貴方に沢山迷惑をかける…それでも、いいんですか?」
「そんなもの、お前がいてくれればいらない。俺は、お前がお前でいるから好きなんだ」
クロムに子供をあやすように背を撫でられ、ルフレは記憶をなくしてから初めて子供のように泣きじゃくった。
ルフレの涙はクロムの服に次々と染みを作っていく。
その涙の熱さに、彼女が平気な顔して隠してきた想いに気づかされる。愛しさがこみ上げ、より近いところで彼女を感じようと思わず抱き寄せた。
「俺だってどうしようもないくらいに未熟だ。だけどさっきも言ったが、俺はお前とだったら何でも出来る気がする」
「クロムさん……」
「俺はお前を選んだことを後悔しない。ルフレ、お前にも絶対後悔させない」
胸に耳を当て、互いに一番近いところで鼓動を感じ合った。包み込むように温かい胸と確かに脈打つ心臓に安心感を覚える。
一番近くにいるが、自分とは確かに違うかけがえのないただ一人だけの存在。やっと本当の意味でこの手で掴めたそれは、キラキラと輝く星のように熱く瞬いていた。
長い間互いに何も言わず、ただ静かに抱き合っていた。
ふとルフレの胸に頬ずりしたとき、そのあまりの滑らかさに違和感を覚えてクロムは改めて彼女に目を向ける。
ルフレの胸がはだけていることに気づかされ狼狽した。今更ながら自分の引き起こした所業を思い出し、クロムは冷や汗をかいた。
「えっと……その、さっきはすまない」
慌てて彼女の胸から顔を離し謝れば、涙で頬を濡らしたルフレはなんのことか、と首を傾げてみせた。しかしすぐに合点がいったのか、落ち着きのないクロムに微笑んで見せた。
「結果的に両思いでしたから気にしないで、確かにスマートとは言い難いですが」
「面目ない。お前を失うのが怖かったから、力で押さえつけようとした…俺は愚かだ、お前に対して最低なことをしてしまった」
深く内省しながらフラヴィアからの手紙に書かれていたことを思い出す。それは明日からの行軍に関する簡単な確認と、クロムの頭を真っ白にしてしまう一文が、何気なく添えられていたのだ。
『あの子に気があるなら、今自分のモノにしておかないと、一段落したらバジーリオが専属軍師兼嫁にするってさ』
今考えてみれば、気負っているクロムに対してのフラヴィアなりのからかいかハッタリだったのかもしれない。だがルフレのことで頭が一杯で余裕がなかったクロムにとっては、例え冗談だったとしても頭に血が昇ってしまい、何も考えられなくなってしまったのだ。
――ルフレが他の男のモノになるのが嫌だった。バジーリオの元へ行くということは自分の元から去るという事だ。彼女が自分以外の男の隣で笑い、喘ぎ、子を成すと想像しただけで身の毛がよだつ程に。
もしあの時に止まらずルフレを犯していたら。例え互いに想い合っていたとしても心が繋がらず、ちぐはぐな関係になっていたのかもしれない。ましてやルフレがバジーリオを好いていたとしたら、個人の問題を超えてイーリスにとって最悪の展開になっていたに違いないのだ。
自分の愚かな行動に俯き悔いていると、不意に視界が揺らいだ。ルフレがクロムの頭を自分自身の胸に押し付けるよう抱きしめてきたのだ。
「ね、そんなに自分を責めないでください」
「だが、俺は」
「確かに少し怖かった。でも、クロムさんがちょっと強引に来てくれたからこそ、私たちは本音で向き合えたんだと思います。貴方はいつだってそう、意気地なしの私を引っ張ってくれる」
髪を漉きながら優しい声音でそう告げるルフレに、クロムは子供扱いされているような情けなさと罪を赦された充実感を覚える。素直になって、彼女の羽毛のように柔らかな胸に甘えた。
「本当は私、傷つくのが怖くて、自分の想いから目を逸らし続けていたんです。立場を理由にして逃げていた嫌な女なんですよ。最近のクロムさんは私を避けていましたし」
「あれは、その…お前の顔見ると恥ずかしくて、つい」
「ふふ、貴方って大胆なわりにはシャイな所ありますよね」
でもよかった、そう花が色づくように笑う彼女が可愛らしくて、クロムは頬を紅潮させた。不覚にも一時的に覚めていた興奮が蘇り、下半身に熱が集っていく。
考えてみれば上半身はだけさせたルフレの胸に顔を埋めているのだ。これで欲情しないわけがない。
「クロムさん、どうかしたんですか?」
ルフレに頬を撫でられ、なんとか踏みとどまろうとした理性が解けていく。
先程怖い思いをさせてしまったのだから、今日はやめておいた方がいいのかもしれない。だが身体は正直で、主張するもう一人の自分に、クロムは頭を抱えたくなった。
「……正直に言っていいか?」
「もう隠し事しない仲でしょう、私たち?」
「あんなことした後にすまない。率直に言うと、俺は今お前を抱きたくて仕方ないんだ」
下手に誤魔化すよりは、と率直に言えばルフレの頬がみるみる赤くなる。
怒らせてしまっただろうか?少し不安に感じていると、彼女は何度か口を開け閉めした後、意を決したように言葉を絞り出した。
「そういうのは正式に結婚したあとじゃないと、色々問題があるような。ましてや、クロムさんは王族な訳です
し」
「…そうだよな。悪い、忘れてくれ」
「で、でも。私も、クロムさんに触れてみたいんです。クロムさんを、誰よりも一番近くで感じたい…」
赤面した彼女がクロムの手を優しく取り、自らの胸へと誘う。ふんわりとした感触が伝えられ、下半身に血が集中するのを感じた。
「だから、その…こ、これ以上は私の口から言わせないでください!」
「いいんだな?後悔しないか?」
「後悔させないって、貴方が言ったことじゃないですか」
目を潤ませ、恥じらうように視線を逸らすルフレの言葉に喉を鳴らし、ゆっくりと頷いた。優しくしなければ、と頭ではわかっているが早く繋がりたいという欲望はどんどん自分の中で大きくなっている。だが後悔させないと宣言した以上、暴走しないよう自分を律しなければ。
先ほどは怒りと焦燥感に身を任せて乱暴に掴んでしまった二つの白い双丘。きめ細やかな肌を優しく摩れば、ルフレはくすぐったそうに声を上げる。そのまま身体のラインに沿うようゆっくり手を動かした。
王族である以上、将来妻となるも者と円滑に子を成せるよう、簡単な性交渉の仕方は習った。当時は意中の相手もおらず、剣術の稽古の時間が削られると不満に思い退屈にしか感じていなかった。だがいざ実践するとなるともっと熱心に授業を受けとけばよかった、と少し後悔している自分がいる。
――大事なのは相手に安心感を与えること。己の欲だけを先行させず、愛情を込めること。
普段堅物の老教師が真顔でそう教授することに、当時はおかしささえ感じていた。しかし、触れてみると女と男の性差は明白で、彼の教えは正しかったと噛み締め手を進める。
戦場では剣を扱うこともある以上、ルフレは女性兵士らしく、しなやかな筋肉はついている。しかしやはり男である自分と比べたら、随分と細く頼りない。普段は男顔負けの剣術でクロムの傍らに立っているが、恥ずかしそうに頬を染める姿と掌に伝わる柔らかさはとても繊細な花のようで。力を込めすぎれば雪玉のように壊れてしまいそうだ。
腹部や背中を撫であげ、ルフレの緊張を解す。彼女が纏っている衣服のベルトに手をかける。金具の音をカチャカチャと鳴らし、ゆっくりと外していった。
するすると現れていく、しなやかな太ももと臀部に思わず目を奪われた。ルフレは恥ずかしそうに身を捩ったが、先ほどのような抵抗は見せない。彼女は両手で大事な所を隠し、拗ねたように上目遣いで見つめてきた。
「私だけ裸なのは、ずるいです」
「ああ、すまない。なんならお前が脱がして見せるか?」
「いえ……それはちょっと」
肌を薄桃色に上気させるルフレが可愛らしくて臍に口付けすると、クロムは一度身を起こして衣服を脱ぎ始めた。勢いよく脱ぎ捨てたせいで、ベッドの下にばさりと服が落ちていく。
「お行儀悪いですよ」と言いかけたルフレの口が止まりきゃっ、と手で顔を覆った。
「…脱げといった割にはなんだよ、その態度は」
「ごめんなさい。男性の裸なんてよくみたことなかったから、つい」
前見たときは一瞬でしたし、と口を尖らせる彼女に苦笑しながら、クロムは再びのしかかる。
そういえばあの時は、覗かれた側であるクロムが物を投げられ散々だった記憶がある。思えば彼女には女だと思っていなかったと言って石を投げられ、裸を見てしまった時も風呂桶を投げつけられたりした。今ではその騒ぎも、愛する者と心を一歩近づけた大事な記憶となっているのだが。
「これからは嫌という程見るんだから恥ずかしがる必要なんてないだろ」
「い、嫌というほどって……ひゃっ、クロムさん?」
くすぐるように脇腹から肋骨浮き出る胸部を撫で、胸の中心で色づく頂点にそっと触れた。輪を描くように指を沿わせ、ぷっくりと膨らみ始めた先端を優しくつまんでみせれば、ルフレは肩をぶるり、と震わせて甘い息を吐いた。擦るように指を動かせば芯を持ったようにそこは固くなり、本能のまま美味しそうに主張するそこを口に含む。緩急をつけてもう片方の胸を揉み上げ柔らかさを堪能する。赤子のように吸って見せれば、ルフレは小さ く喘ぎ声をあげた。満遍なく唾液で濡らし、甘噛みしては舌で転がすと、ルフレの肌が粟立っていることがわかる。荒くなっていく吐息に気分を害してないか、と不安に思いのぞき見る。彼女は目を潤ませ、指で口元を押さえ堪えるようにクロムを見つめてきた。
「なんか、変、です……」
戸惑いと羞恥を言葉に滲ませているが、とろりと溶けた飴のような瞳に、決して嫌がっているわけではないことを悟った。
「お腹がきゅっとして…その、私」
「大丈夫、それが自然なことなんだ」
やはり経験がないのか、はたまた抱かれた記憶を失っているのか。どちらにしろ生娘のような反応を示すルフレが愛らしくて、もっと反応を楽しもうと胸を揉んでいた右手を下腹部に沿わせ、そのまま股の間へと滑り込ませた。
「クロムさん、そこはっ」
ルフレの身体が強ばるが、胸への愛撫を続ければあっさりと弛緩させ、牝猫のように甘い声を上げた。きめ細やかな肌に包まれた太腿の内側に触れると、秘所から愛液が滲み、伝っているのがわかった。唾液で濡らした乳首を口から離し、濡れた指先を彼女に見せつけた。
「ほら、ちゃんと濡れている。感じているんだ」
「わ、わざわざ見せなくていいですから…!」
「相変わらずデリカシーがないです!」そう言って目尻に涙を浮かべたルフレに悪かった、と笑ってみせ、両手を使い彼女の足を大きく開かせる。下着越しでもわかる程そこは濡れており、布地に黒い染みを作っていた。
「うう、そんな、まじまじと見ないでください…」
「すまない、俺も女の裸はよく見たことなかったから」
「もう、どうして貴方はそう、さらりと恥ずかしいこと言えるんですかっ!」
足を閉じようとするルフレに体ごと割って入り阻止する。自然と太腿に顔を埋める形になり、擦れる髪がくすぐったいのか、彼女の足が忙しなく揺れた。
クロムは小さな抵抗をさして気にせず、下着越しにそっとルフレの秘所に指を沿わせる。布越しに伝わる湿り気に安堵の息を吐くと、こそばゆさで悶えている彼女と視線を合わせた。
「脱がしていいか?」
「……ッ」
恥ずかしさで言葉にできないのか、それでもコクリと頷いてみせるルフレの意志を確認すると、クロムは下着に手をかける。軍の支給品である簡素な麻製の下着をするりと脱がすと、薄い茂みに隠された秘所が垣間見えた。外気に触れたそこは恥じらうルフレのようにふるりと震え、初めて間近で見た女性というものにクロムは無意識のうちに唾を飲む。桃色に濡れた繊細な花弁を壊さぬよう、なるべく優しく触れてみた。割れ目に沿うようなぞってみれば、ぴちゃり、とそこは水音を立て、より直接的な刺激にこぷりと蜜を零し、日焼けしていない太腿を伝っていく。
「ひっ」
「痛かったか?」
「いえ、痛くはないんです。けど…やっぱり、変な気持ちになって…その……」
胸を抑えそう訴えるルフレを安心させるよう、艶かしいラインを描く腰を撫でた。不安そうな口ぶりとは裏腹に、秘所はクロムを欲しがるようにひくついている。
「私、どんどんはしたない気持ちになって、こんなの、恥ずかしいんです……」
普段は冷静に戦場を見渡している目が、クロムの前でだけこんなにもあどけなく潤んでいる。
もっと汚したい。自分の存在だけを刻みつけたい。
泣き出しそうな彼女に嗜虐心が刺激され、柔肉へ爪先をつぷり、と指し込んだ。
「クロムさ、ぁっ!」
第一関節が淫靡な水音と共に埋め込まれていく。
異物に戸惑うようにルフレが声を上げるが、そこはクロムをさらに誘うよう蠢き引き込んでいった。熱く、とても狭い。本当に自分のモノが入るのだろうかと心配になってくるが、指を動かせばそこは伸縮性に富んでおり、指の形を取るよう開かれていく。初めて触る感触に息を荒くしながら奥へと推し進めると、ある地点でルフレの腰がビクンと跳ねた。
「ぁあッ」
「ここが気持ちいいのか?」
「や、ダメ……そこは、あう!」
少しざらざらしたところを撫でると、今までと明らかに反応が違う。ルフレは腰を跳ねさせ彼女の中がギュッと
狭くなった。
女は男と快楽を感じる部位が違うと教師から話半分に聞いたが、これほどに違うものなのか、と一人感心する。
互いに一番近くにいるものと思っていたが、知らないことはまだまだ多いものだ。しかし、これからはお互いにしか知らないことを共有できる。その幸せを噛み締めクロムは指をズルリと引き抜いた。ルフレはというと息を荒くし、指が抜かれた喪失感に切なく喘ぐ。
とはいえまだまだクロムを受け入れるにはそこは狭すぎるだろう。今度は指の本数を増やし、彼女の胎内へと侵入していく。物欲しそうに疼くそこへ打ち込み、なるべく負担にならぬようゆっくりと抽挿した。指を動かせば動かす程蜜は溢れていき、シーツの上に零れ落ちてクロムの手首まで濡らした。
ルフレは口を必死で押さえて断続的に喘ぎ続ける。もう何も考えられず、彼の攻めに堪えるもシーツが擦れる音と自らが発する水音に、羞恥と興奮を増していった。
「そろそろ大丈夫か……?」
指を3本咥え、食むように蠢くそこを見つめながら、クロムは一人呟いた。
最初に比べれば随分と広がったように思えるが、男を受け入れるにはまだきついかもしれない。しかしクロム自身はもう限界にまで反り上がっており、早く彼女と繋がりたいと主張している。焼き切れそうな理性をなんとか繋ぎ止めルフレの頬を撫でた。快感に震え小刻みに息を吐く彼女がそっと瞼を開き、覗いた飴色の瞳にドクリと心臓が音を立てる。
「クロムさん…?」
「ルフレ、俺を止めるなら今だぞ。これからすることは自分を抑えられなくなる可能性がある」
汗が流れ落ち、彼女の胸に落ちて弾けた。余裕なく震える自分の声に気恥ずかしさを覚えながら、それでも傷つけたくないという想いから彼女の手をそっと取り、高ぶる自身へと導いた。下着越しからでもわかる猛りにルフレは目を見開く。その大きさと硬度を確認させ、彼女をそっと伺い見る。
「今からこれを、お前の中に挿れる。きっと男の俺には想像できない痛みがあるかもしれない、だけど一度始めたら、お前がやめてといっても止められる自信がないんだ…だから、嫌なら今言ってくれ」
今にもはちきれてしまいそうな己だが、ルフレが嫌がれば自分で処理しようと心に決めていた。しかしルフレは最後の心遣いに首を振り、下着を押し上げるクロム自身を撫でるように手を動かし呟く。
「クロムさん、辛そうな顔しています」
「ルフレ、そんなに触る、と」
「私だけ気持ちよくなって、恥ずかしいところ見られるのは嫌です。私も、貴方と繋がりたい。だから…お願いします」
「ッ」
呼吸をする度に小さく動く桃色に色づいた唇が、潤んで宝石のように艶めく瞳が、クロムの最後の砦となっていた理性を砕かせた。自身を撫でていた彼女の紫の痣が刻まれた手を毟るように取り握り締め、そのままシーツへ縫い付ける。
「もう止めろと言われても止まらないからな、ルフレ!」
「来て、ください……」
下着を下ろす時間さえ惜しくて、クロムは猛る自身を片手で取り出すと彼女の秘所に押し付け、存在を確かめさせるよう擦りつけた。水音を立て割れ目を滑るそれにルフレは身体を固くしたものの、こくりと頷き緊張した面持ちながら笑ってみせた。クロムも微笑み返す。
何度か蜜で滑らせ満遍なく濡らした後に彼女の胎内へと先端を挿れ、侵入を開始した。
「ぁ、ぁぁッ……」
ルフレの中を食い破るように、ゆっくりとクロムが押し入ってくる。やはり指とは比べ物にならない質量に快感よりも痛みが先行した。それでもルフレの身体が拒絶しないのは、クロムが手をしっかりと握ってくれて、安心しきっているからだと充足感を噛み締める。
男女の性差、性交の知識については一応本で読んだ知識としてあったが、実際に体験してみると想像していたよりもずっと生々しく、高尚ぶっている人間も生物の一部なのだと気づかされる。そしてより相手のことをより深く感じ取れる行為だと、曖昧になってきた意識の中ぼんやりと考えた。
腹部に熱いものが満たされる感触に息苦しくなる。記憶を失っているから詳しいことはわからないが、ルフレも
数える程しか触ったことのない箇所が、クロムによって暴かれていく。
ルフレの中で順調に進んでいた彼が止まる。何事かと目を開けば、余裕なく細められたクロムの濡れた瞳に飲まれそうになった。
「少し痛いかもしれんが、我慢してくれ」
「ひぅ!」
何かがプツリと千切れた感触と、下腹部に走る鋭い痛みに悲鳴を上げる。それと同時にクロムの侵入が再開された。一応加減はしてくれているようで気遣うゆっくりと入ってくるが、未熟で馴染みきらない胎内は彼の形を必死で覚えようと、ルフレの意思を超え締め上げていく。
それでも頑なに守られているそこをこじ開けるように押し進められ、ようやく彼の根元まで収まり二人同時に熱く荒い息を吐いた。
(クロムさんが、ここにいるんだ。私でも触れないような場所に)
脈打つ彼の大きさをその身をもって感じ取り、ルフレは思わず微笑んでしまう。腰と腹が裂かれるような痛みさえも、彼によって刻まれたかけがえのない証のようで
心と身体が繋がれた幸せに涙が溢れた。
「ルフレ、大丈夫か」
「つづけて、クロムさん…わたし、すごくしあわせなんです……」
情欲に濡れながらも気遣わしげな瞳に、繋がれた手を強く握り返すことで応えた。クロムは汗で湿ったルフレの前髪を撫で、涙を吸うよう目元に口づけを落とす。そして締め付けが弱まった頃合いを見て、ゆっくりと腰を動かし始めた。
最初は引き攣れるような痛みに顔を顰め、脂汗が額から流れ落ちていった。しかし励ますように落とされるキスと、時折施される愛撫に身体が解けていき、次第に滑りがよくなり痛覚以外の感覚を感じ取る余裕が出来てくる。
「ぁ、あっ」
「お前の中、あつい」
肌と肌がぶつかり合い、汗が宙に散っていく。抽挿する度に響く淫靡な水音に聴覚まで犯されていくようで、最後の枷のようにルフレにこびりついていた羞恥が消え失せ、興奮が高まる。そのことでより身体が快感を拾い上げていき、ひっきりなしに鳴き続けた。
最初こそ侵入者を追い出そうと、引きちぎれんばかりに締まっていたルフレの秘所も、すっかりとクロムに慣れてしまった。今ではしゃぶりつくすように彼を受け入れ、女としての歓びに震えている。
「ひゃん、だめ、そこ!」
「ここ、か?」
「や、ああッ」
掠めた箇所に反応し身体をしならせるルフレを見て、指で感じていた所を思い出すように腰を穿てば、彼女の中がきゅうっ、と締まる。びくびくと足を震わせる姿が愛らしくて、連続してそこを集中的に責めれば彼女は髪を振り乱し、地上に打ち上げられた魚のように悶えた。
「だめ、おかし、くぅ……!」
「もっとだ、ルフレ、俺だけに、もっと見せてくれ」
誰にも見せたことがない、そしてこれからも他人には絶対に見させない姿に、クロムの口元はいつの間にか弧を描いていた。明日になればまた軍主と軍師として皆に取り繕うだろう。しかし冷静に戦場を見つめるその瞳も
強力な魔法を放って皆を救うその身も、全て知っているのは自分だけなのだ。
主が甘く高い声を上げる度にクロムの精を絞ろうとしてくる器に、正直気を抜いたらいますぐにでも限界を迎えてしまいそうで。それでもルフレと共に果てたいと願いながら焦らすように感じる箇所を掠め、緩急をつけて腰を動かした。
「ク、ロムさ、も、だ、めッ」
「ルフレ、ルフレっ」
両手を繋ぎとめ、動くたび目尻から溢れそうな彼女の涙に欲情した。悲鳴のような喘ぎ声に頷くと、クロムはルフレに口付け律動を激しくし、最奥を穿つように腰を推し進めた。
秘所の上部で慎ましやかに主張する粒に恥骨が擦られ、嬌声を吸い込まれ抑えきることのできない快感にルフレは全身を震わせる。辛うじて残っていた思考さえも白く溶けさせた。クロムもまた柔らかい唇を貪りながら扱き上げるように蠢く秘所に己の欲を吐き出す。
一滴残さず彼女の中に出そうとより深くに腰を押し付ければ、応えるように彼女も足を絡めてきた。しっかりと繋がれた手と身体。このまま溶け合って一つになって
しまえばいいのに、と二人は絶頂の波にさらわれながら思考を共有しあい、番の猫のように額を寄せ合って目を伏せた。
「ぁ、……」
しかしいつまでも繋がっている訳にもいかない。
クロムはルフレの唇を惜しむように食んでから離し、ずるりと精を吐き出した自身を引き抜いた。接合部から名残惜しげに流れる液体は薄い赤みを帯びていて、彼女の純潔を奪ったことに言葉で現しようのない充足感を得て下腹部をそっと撫でる。ぐったりとベッドに身を投げ出し、焦点の合わない目でこちらを見つめてくるルフレに不安を感じ、彼女を抱き起こした。
「……大丈夫、か?」
「は、はい、なんとか…なんだか、夢をみているみたいで……」
依然ぼんやりとはしているが、照れた顔でクロムの掌に頬を摺り寄せるルフレに安堵した。そっと汗が浮いたままの額に口付けを落とす。彼女もそれに応えるよう頬にキスをしてきて二人で子供のように笑いあった。
「夢だと思うなら、もう一回してもいいんだぞ?」
「さ、流石にもうムリ…腰が抜けちゃいます…」
「すまん、勝手がわからなかったんだ。痛かっただろ」
「クロムさんも初めてだったんですか?」
目を丸くするルフレにクロムは赤面し、「悪いかよ」と呟いた。過去に侍女で一度相手をしたらどうかという話も出たが、剣術の稽古と自警団の設立に注力していた為断ったことがある。経験があれば彼女に無理をさせなかっただろうか、と一瞬考えたが、それでも初めてがルフレで良かったと思い、彼女の髪を梳く。
「ふふふ」
「なんだよ、急に笑って」
「私のこと女として見てないと言ったこと、思い出しちゃって。まさかあの時はこんな関係になるなんて夢にも思ってなかったから」
「お前も結構根に持つな。確かにそうは言ったが、あの頃から俺はお前にずっと傍にいて欲しいと思っていたんだぞ」
「私だって、貴方の傍にいたいってずっと、きっと出会った頃から」
顔を赤くしたルフレが抱きつき、皺だらけになってしまった絹製のシーツに二人して転がる。
紫紺の痣が刻まれた彼女の掌が、縋るようにクロムの胸に触れた。
「私、家族のことも思い出せないような女です。子供が出来ても、良い母親になれないかもしれない。それでも本当にいいのですか?」
「今更だな。それに、俺だって似たようなものだ。…姉さんやフレデリクが育ての親みたいなもので、両親のことをよく覚えていないから、父親というものがよくわからないんだ」
不安そうに見上げてくる彼女の掌を握る。母はリズが生まれた頃に他界し、父は戦いに明け暮れ滅多に触れ合う機会がなかった。
お互いわからぬならば共に成長し、親になっていけばいい。ルフレとならば、足並みを揃えてきっと乗り越えていける。そんな自信に満ち溢れていた。
「それに、もうお前と俺は家族だろ?もうここまで来たんだ、なかったことには出来ないからな」
「クロムさんったら…まだ正式に決まったわけじゃないのに気が早いんですから」
ルフレはそう言って笑い、繋がれた手を柔らかい腹部に押し当て目を閉じる。
いつかここに宿るかもしれない命。愛する人と自分の因子を継いだ結晶。もし家族が増えるのならばどんな子なのだろうと、想いを巡らせた。
「正式も何も俺たちで決めたことだ。誰に何を言われてもお前を妻にするからな、ルフレ」
「……有難うございます、クロムさん」
「姉さんの分も幸せにする。…絶対に、この手を離しはしない」
「はい。私は、幸せ者です」
夢を見るよう瞼を閉じ、長い睫毛を伏せる彼女に口付けをする。
愛する者達を守る為に、愛し合う者たちが安心して時を刻める世を作る為に……そして姉が目指した理想の光を見出す為に。冷気に包まれた褥で抱き合い、言葉なくとも想いを一つに重ねて誓う。
そして裸の男女は互いを温め合うよう身体を絡め、一時の眠りへと落ちていった。
普段は厚い雪雲に覆われているフェリアの空が珍しく晴れ、黒曜石のような天蓋に金剛石のように煌く星と寄り添うように輝く星が熱気覚めない城を見守っていた。
※この作品には性描写が含まれております。18才未満の方は閲覧をご遠慮ください。
天候シリーズ第二弾。甘いクロルフのはず。
時期的にはルキナ加入~ヴァルム進軍前の本拠地での出来事です。
つづきから本編+作品解説。
紙の束を濡らさぬように気をつけながら、ルフレは外套のフードを被って水溜りが出来つつある道を駆けていた。
足りない武器の補充リストを作るために本拠地の武器庫に篭っていた為、いつの間にか降り出した雨に気づかなかったのだ。
確かに南から怪しい雲は来ていましたけど、とルフレは恨めしそうに跳ね上がる泥に汚されていくブーツを見た。折角の下ろしたてだったのに。
まあどうせすぐに汚れてしまうんですけどね、と内心ため息をつきながら宿舎へ向かおうとしていたその時、稲妻が薄暗い空を照らしルフレの視界を奪った。
「ひゃっ!」
その後すぐに聞こえた大地を裂くような音に、思わず立ち止まって身体を竦めてしまった。
随分と近くに落ちたのだろう。早く帰らなくてはと足を急がせようとして、ふと視界に入ったものにルフレは再び足を止めた。
(クロムさん…?)
土砂降りの雨の中、天を仰いでいる軍主をルフレは訝しげに観察する。彼の白いマントは泥が跳ねて随分と汚れ、長時間そこにいることを物語っていた。
雷に臆することもなく、クロムはそこに立っている。容赦なく彼の身体を打ち付ける雨を子供が罰を受けているような顔で、ただただ黙って受け入れていた。
「ってクロムさん!?何をしているんですか!」
いくら頑丈だからとは言え、長時間雨に打たれていたら風邪をひいてしまうかもしれない。
慌てて彼に駆け寄って手首をつかめば、彼はゆっくりと振り返った。
「、ルフレ」
一見してみればいつもと変わらない涼しげな表情。
しかし雨に濡れた彼の藍色をした瞳はどこか虚ろで、何かが欠けているように見えた。
「クロムさん?」
――泣いている?
雨に濡れているだけかもしれないが、彼の目は潤んでいるように見えてルフレは一瞬虚をつかれたが、握り締めた手が冷え切っていることにハッとさせられる。
「ともかく帰りましょう!こんな所にいたら雷に当たってしまいますよ!」
話は後だ、そう思いルフレはクロムの手を引いて宿舎へと向かう。
いつもは頼りがいのある彼の手は母親に手を引かれる子供のように素直で、何も言わないで雨に打たれていた彼の心がわからないまま水たまりをバシャリと踏みしめた。
*
「姉さんのことを思い出していたんだ」
寝台に座り、意外と柔らかい藍髪をゴシゴシと布で拭いているとクロムがポツリと呟いてきた。
彼は窓に叩きつけられている雨粒をぼんやりと見つめながら言葉を続ける。
「鍛錬が終わってなんとなく見上げたら、姉さんが処刑されて逃げている時と空が同じ色だったんだ」
「…中央砂漠の時ですね」
クロムの髪を拭く手を止めルフレもまた雨模様を見つめ唇を噛む。
エメリナが身を投げ、命からがら逃げてきた時もこんな突然の雷雨だった。ぬかるむ砂地を皆絶望的な気持ちで走り、それでも女王の覚悟を無駄にしないようにと必死だった。
ギャンレルを倒し、クロムが聖王代理となった今、そんなに月日は経っていないはずなのにすごく昔のことに感じる。
「なあルフレ、今の俺なら姉さんを救えたと思うか?」
クロムの大きい背中が今だけは子供のように小さく感じる。表情は背中越しで窺い知ることはできないが、きっと迷子のように泣きそうな顔をしているのだろう。
エメリナはクロムの中であまりにも大きすぎる存在だった。そのことは今も変わりがない。
ルフレはそっと彼の背に寄りかかる。
「きっと、今の私たちになら出来ますよ」
現代のルキナが生まれ、ヴァルムヘの進軍準備をしている今、クロムは聖王代理として以前とは比べ物にならないくらいしっかりし、平和を導く王としての姿を民に見せている。
しかし本当はどうしようもないくらいに深い傷を負って、それを責務という瘡蓋で覆い隠していることをルフレは知っていた。普段明るいリズも、女王の傍に長くいたというフレデリクも。
ルフレは家族の記憶がないから、こんな時どう声をかけていいのかわからなかった。
――どうしたら、彼がふと覗かせる傷痕を埋める事ができる?彼の悲しみに寄り添える?
クロムの身体に腕を回しながらルフレは考える。
忘れてしまえ、なんて言えない。
きっと知略を凝らしても言葉では解決できないのだろう。
ならば行動でならばどうなのだろう?
彼のたくましい腹部を撫でながらルフレは背に頬ずりした。
きっと本当の意味で彼の傷を癒すことはできないのだろうけど、傷つき震えている時に傍にいることならば、ルフレにも出来るのだから。
「わかっている、どれだけ俺たちが強くなっても姉さんは帰ってこない」
しばらく雨音しか聞こえていなかった部屋にクロムの声が響く。
「だけど姉さんが命に変えてでも残してくれた平和の種は、俺たちが守れるんだ」
クロムの背しか見えなかった視界が揺れる。
雷が落ちたらしく一瞬部屋が明るくなった後、気づけばルフレの身体はベッドに押し倒されていた。
クロムの濡れた瞳が目に映る。
「成すべきことをわかっているのに、今でも割り切れないでいる自分が情けない」
「そんな情けない所を見せてくれるからこそ、皆貴方についてきてくれるんですよ」
彼の頬に手を伸ばしそう笑って見せればクロムはやっと微笑み返してくれた。
冷たいシーツが二人の体温を吸って温かくなっていく。
「なあ、お前はいつまでも俺の傍にいてくれるか?」
「貴方が嫌だ、といっても傍にいますよ」
「そんなこと言う日が来るとは思えないな」
二人で顔を見合わせ笑い、猫のじゃれあいのように身体を寄せ合った。
最初は子供の戯れのように触れ合っていただけだったのだが、次第に服の中に手が潜り込んでいることに気づいてルフレは慌てる。
「ク、クロムさん?こういうことは城に戻ってからに…」
「すまない、安心したら急にしたくなった」
照れた顔のクロムがルフレの手を導き、すっかり膨らんでいる自身に触れさせれば彼女の頬が赤く染まった。
「もう、ルキナ達もいるのにダメですってば」
「そういうお前も足を擦りあわせてどうしたんだ?」
尻を撫でられびくりと身体を震わせるルフレにニヤリと笑って見せれば、彼女は熱い息を吐いて「もうっ」とクロムの胸を叩いてくる。
「いいですか、絶対に声を出しちゃダメですからね!」
「ああ、努力する」
もう数え切れない程交わっているのに今でも初々しい反応をするルフレが可愛らしくて、その頬に口づけをする。
触れた唇の感触に怒る気も失せてしまったのか、今度はルフレから唇にキスをしてきた。
雨粒は今もリズミカルに窓を叩いている。
ルフレは赤面しながら寝台に横たわる夫のズボンに手をかけ、彼のモノを取り出すと髪をかきあげ覚悟を決めた。そんな妻の様子を、少しだけ身体を起こしてクロムは満足そうに見守っていた。
城ではルフレから誘ったことも多々あったが、ここは自警団本拠地だ。鍵こそ締めてあるものの軍主クロムの元にいつ誰が訪れてくるかはわからない。
(仕方ありません、早めに終わらせましょう…)
ルキナやマークがもし訪れてきたら…そう考えただけでゾクゾクと奇妙な感覚が体中走ってしまう。そうなる前にケリをつけなければ。
脈打つそれにそっと舌を這わせる。クロムの体がピクリと跳ねるのを感じ取ると、先端から根元まで優しく舌を滑らせた。
クロムは約束通り声を漏らさず、部屋にぴちゃぴちゃと濡れた音だけがやけに響く。奉仕しているのはルフレの方なのに何故だか妙に恥ずかしく感じてしまい、下腹部がきゅん、と切なくなった。ただでさえ彼の匂いで頭がくらくらしているというのに。
熱い先端部を口に含み手でしごけば、それははち切れそうな程みるみると大きくなっていくのを感じる。口の中に苦味を感じ、クロムが感じていることに安堵し舌を大胆に絡ませる。
そのまま出させてしまおう、と調子づき喉まで入れようとすればクロムに頭を掴まれズルリと引き離された。
「お前の中でイキたい」
唾液に濡れたそれを物欲しそうにみるルフレにそう囁く。
彼女は抗議するように見つめてくるが、クロムに耳朶を舐められ背中を震わせ文句を言う気も失せたようだ。
口を拭うと彼女は下着をおろし、自身の秘部に指を這わす。既に太腿まで愛液が伝っている程濡れていたそこを軽く解すと、身体を起し彼の上に跨った。
――彼に主導権を握らせてしまうと、容赦ない攻めについ声が出てしまうかもしれない。
ならば自分が制御して動けばいい話だ。
「私から動きますから、クロムさんは絶対に動かないでくださいね!」
「善処する」
ニヤニヤしているクロムを軽く睨みつけると、ルフレは彼のモノをそっと自分の秘部に導き腰を下ろしていく。
第一子を産み普段から愛されているそこは容易く彼自身を飲み込んでいき、ズブズブと侵入してくる感触に軽く背を反らせて必死で声を耐えた。
腹部が熱く満たされる感触に汗が落ちる。はあ、と湿った息を吐き柔肉が彼を馴染ませたことを確認すると、ルフレはゆっくりと腰を動かし始めた。
淫靡な水音がいつもより大きく聞こえいつも以上に羞恥心を煽られ意識していないのに引き締まってしまう。
クロムも同様なのか、ルフレの下で熱くため息をつき身体を震わせていた。
「いつも以上に濡れているな」
「そ、ういうこと、いわない、でっ」
攻めているのはルフレのはずなのに、腰を動かすたびにどんどん余裕が失われていく。
油断すると嬌声が溢れ出てしまいそうな口を抑えながらルフレは夫を睨みつける。それでも腰の動きは止めることはせず快感に身を震わせていると、扉が叩かれる音がして思わず身体を凍りつかせた。
「おいクロム、いるのか?聞きたいことがあるんだが」
何も知らないガイアの声に、恐れていた事態が起きてしまった、とルフレは目を見開き動きを止める。行為に夢中で外の様子など気にならななかったのだ。
しかしルフレの中のクロムは相変わらず熱く固く脈打っており、緊張で余計に締め付けてしまって変な声が出そうになってしまい慌てて口を抑えた。
「ああ、ガイアか…悪いが後にしてくれないか?」
窓が雷の音でビリビリと震える。
早く去って欲しいと願いながら声を抑えていると、不意に下からズン、と衝撃が走った。
驚愕して下を見れば、クロムが尻を掴み彼にしては意地の悪い笑みでこちらを見上げていたのだ。
「――ッ!」
一際感じる所を突き上げられ、ルフレは声にならない声を上げる。肉がぶつかり合う音と水音が部屋に響き、お願いだから雷鳴と雨音で掻き消えて、と沸騰する頭で祈った。
「この雨でやられて、今着替えの最中なんだ。すまない」
「俺だって野郎の裸なんぞ覗き見る趣味はねーよ。急ぎの件じゃないから明日でもいいぜ」
「悪いな」
何事もなさそうに会話するクロムの反面、不規則な律動でルフレは達しそうになり、指を噛み必死で嬌声が漏れ出ないよう堪えていた。
靴音が離れていくのが聞こえ、ルフレは安堵のため息をつく。その途端クロムに腕を引かれ、彼に跨っていたはずの身体が繋がったまま反転されてシーツに押し付けられた。
「こら、指を噛むな」
「ぁッ、クロム、さ、やぁ!」
抉るような深い突きで堪えていたはずの甘ったるい声を上げてしまい、再び指を噛もうとするもクロムに押さえつけられ叶わない。
ルフレの感じる部分を集中的に突けば彼女の身体は若鮎のように跳ね、クロムもまた焦らされていた分激しく彼女を求め無我夢中で腰を動かした。
「だめ、きこえ、ちゃうッ」
「聞こえても、いいだろ。お前は俺の、妻だ」
「そ、れとこれ、は、ぁん」
いつも以上にぬかるみ締め付けるそこが気持ちよくて、クロムは約束など忘れ彼女の胸に吸い付く。むしろ、ルフレに近づく男がいなくなるようもっと声を上げればいいとさえ考えていた。
ぷっくりと色づいたそこに舌を這わせれば、シーツを掴み悶えているルフレはより一層切なげに鳴く。傷つかない程度に歯を立て腰も激しく律動させれば彼女は足を弾かれたように震わせた。限界が近いのだろう。
「クロ、ムさ、ぁっ、わたし、も、う」
「ルフレ、いっしょ、に」
最奥を穿つよう腰を打ち付ければルフレはクロムの胴に足を絡ませ白い喉を仰け反らせた。
その瞬間快感に弾け、呻きながら彼女の中を熱い飛沫を注ぎ込んでいく。
全部出しきったことを確認すると、荒く息をつきながら二人は噛み付くようなキスをする。舌を絡み合わせ湿った口内をまさぐり合い、名残惜しげに柔らかい唇を舐め上げ顔を離した。
ルフレは暫く目を蕩けさせ行為の余韻に浸っていたが、ズルリと抜かれたクロムのものと白濁に正気を取り戻したらしく、茹で蛸のように赤くなってしまう。
「ひどいです…うごかないって、いったじゃないですか!」
「俺が我慢できない性格だってこと、誰よりも知っているだろ?」
「バカ!クロムさんの変態!きこえていたらどうするんですか!」
涙目になり枕でボスボス殴ってくるルフレだったが、快感の余韻がある為かその力は弱い。
笑いを噛み殺しきれていないクロムによってあっさりと枕を奪われてしまい、拗ねてしまったのかプイと背中を向けてきた。
「いいだろ、誰もお前に色目使わなくなるし一石二鳥だ」
「一石二鳥じゃありません!イーリスの軍師が色ボケしていると思われたら示しがつかないじゃないですか!!あぁガイアさん気づいていたらどうしましょう…ルキナ達に聞こえてたら…クロムさんのバカぁ…」
ルフレの滅多に見せない子供じみた行動が愛しくて、涙ぐんでいるらしい彼女を背中越しに抱きしめる。
いつの間にか雨は止んでいたようで、窓からは薄く日の光が差し込んでいた。
「すまない、久々だったから自制できなかったんだ。…それとも嫌だったか?」
「…嫌な訳、ないじゃないですか。クロムさんはずるいです。そうやっていつもうやむやにするんだから」
ルフレの目尻に浮かんだ涙をそっと掬うと、彼女はようやくクロムの胸に身体を預けてきた。
「さっき情けない姿を見られたからこれでお互い様だ」
そう耳元で小さく囁くと彼女は何か言いたそうな顔をしたが口を噤む。
今でも何かきっかけがあればすぐ姉エメリナのことを思い出す。
優しく抱きしめられたことも壁を壊してしまい叱られたことも、辛い思い出も良い思い出もあるが最後は決まって彼女が飛び降りる場面が目に浮かぶのだ。その度に自分がどうしていいかわからなくなり、目の前にあったはずの道さえ見えなくなって途方に暮れてしまう。
そんな時、ルフレは黙って傍にいてくれる。立ち止まる度に手を取って温もりを与えてくれる。
現代のルキナが生まれた今でも、こうして時々彼女に甘えてしまうのだ。
「…有難う、お前に出会えて良かった」
ルフレの首筋に頬を寄せ、強く抱きしめれば、彼女はそっとクロムの掌に自分のものを重ねた。
言葉がなくても気持ちが伝わる。口があまり達者ではないこの関係が心地よく、それ故失うことを誰よりも恐れていた。
それはルフレとて同じだった。クロムの吐息と温もりを感じながらそっと窓に視線を向ける。
そして「あっ」と小さく声を上げた。
「見てくださいクロムさん、虹が」
鉛色の雲の切れ間からはいつの間にか青空が覗き、そこに七色の光が橋を駆けていた。
目を輝かせて雫に濡れた窓を見上げるルフレに釣られ、クロムもまた目線を上げた。
先ほどの雷雨が嘘のように清々しい光景に、自分自身の中に積もった汚泥も洗い流されていく気がする。
「折角ですから見に行きましょう!」
「俺としてはさっきの続きをしたいんだが…」
「ダメです、約束を破ったんですから一週間はお預けですよ」
ニッコリと凄みのある笑みを浮かべて尻に伸ばした手を叩かれ、クロムはしょんぼりと肩を落とした。
まだ体のうちにある欲の炎は冷め切っていないのだが仕方ない。ルフレを本気で怒らせると怖いのだ。
「ほら、早く行かないと消えちゃいますよ!」
明るい声で脱ぎ散らされた服を渡してくるルフレに苦笑いをすると、クロムは諦めてそれを受け取った。
一足早く服を着込み色気の欠片もない妻に着るのを手伝ってもらう。まだ僅かに濡れた髪を掻き上げ、二人仲良く手を繋いで乱れた寝台からゆっくりと立ち上がった。
――どんなに激しい雨でも止まない雨はないんだ。
日光に煌く濡れた草木を踏みしめ、覗いた青空へと駆ける虹を愛しい人と見上げながら、クロムは満たされた気持ちで答えを導き出した。
あとがき
声を抑えて羞恥プレイっていいよね!という自分の趣味が存分に詰め込まれている作品ですねテへ。
クロルフは精神的な結び付きからの肉欲になると思うので、あまりエロは過激にならないと思うのですが今回はクロムさんの性格がちょっと違いますね。
クロルフは実は二人共独占欲が強いと思うのでたまに羞恥プレイをして楽しんでいるんじゃないでしょうか、雪に咲く華よりも回数を重ねてスムーズになっている二人が書けていたらいいですね。
本拠地は絶対夫婦だったらこっそりと致してますよね(汚れた視点)
表紙イラストはラストシーンっぽいイメージで。
「ルキナねえさん、すごいですよ!まっしろです!」
「待ってください、危ないですよマーク!」
藍色髪の子供たちが目を輝かして銀世界へと飛び出していった。
一夜を通して降り続けた雪で外は一面白く覆われ、目に眩しいほどに染め上げられている。
フレデリクの手によって嫌というほど厚着させられ、うずうずしていたマークの好奇心は外に出るなり火花のように弾け、中庭へと駆け出していった。
ルキナはそんな弟を諌めながらも自身もまた楽しみで仕方なかったらしく、さくさくと踏みしめられる雪の感触に跳ね回っている。
――まるで雪うさぎみたいだ。
ルフレ自身も襟巻きをしながら子供たちのはしゃぎ回る様子を微笑ましい気持ちで見守っていると、「元気だな」と背後から声をかけられ振り返る。
「クロムさん、その格好」
「…フレデリクが風邪をひくからと仕方なく、だ」
クロム様を風邪から絶対死守、と編みこまれた桃色のマフラーをまいている夫に笑いを噛み殺しきれず噴き出すと、彼は少しだけ不機嫌そうに視線を逸らしてきた。
「ご、ごめんなさ、でも、おかし…あははっ」
「そんなに笑うな。似合わないとはわかっているが、これしか手持ちがないみたいでな…夜なべして編んだと真顔で言われたら断るわけにもいかないだろ?」
ヴェイク達に見られたら死ぬまで話のタネにされる、そう行ってクロムは少しだけ遠い目をした。
ルフレはこらえきれずひとしきり笑うと、目に浮かべた涙を拭いながら雪を散らして中庭を駆ける二人を再び眺める。
「イーリスでこんなにも雪が積もるなんて久しぶりですね」
「あの時以来じゃないか?確か、ルキナが生まれる前の冬だ」
「ああ、そういえば」
ルフレはあの時を思い返そうと目をくるりと動かす。
あの時は確か賊の討伐の為に従軍していた時だ。比較的温暖なイーリスでは雪が降ることはあれども積もることは珍しいからよく覚えている。
「あの時は熱かったな」
「なに言っているんですか、雪が降ったから暑いわけ…」
変なことを言うクロムに怪訝な顔で振り返ると、彼がやけにニヤニヤしている。
「忘れたのか?あの薪小屋のこと」
「!!!」
腰から背骨にかけてのラインをさすられてようやくその時のことを思い出し、冷えて白磁のようになっていたはずの頬が林檎のように赤くなった。
「お前がいきなり脱ぎだした時はびっくりしたぞ」
「だ、誰かが聞いているかもしれないからそういう話は外ではやめてください!」
「さっき笑った仕返しだ」
笑いながら抱き寄せてくるクロムを軽く睨みつけるが、ルフレは熱い雪の夜を余計鮮明に思い出し、茹で蛸のように真っ赤な顔になってしまった。
*
鉛色の空を見上げながらルフレは白い息を吐く。
フェリアとの軍議のために山道を進軍していたクロム自警団一行だったが、途中で賊に襲われている村人と出くわし、近隣を荒らしているという話を聞いてしまった。
躊躇う素振りを見せずに「助けよう」と断言した軍主に逆らう者はおらず、こうして賊退治へ趣いたわけだが、どうにも天気が優れない。
鋼の剣を持つ手が悴んでいる。
フェリアは雪の日が多いと聞くが、イーリスはうまく山脈に遮られているためか雪雲が運ばれてくることは少ない。
しかしどうも今日は違うようだ。
分厚く空に垂れ込む雲に嫌な予感がして、ルフレは身震いしながら剣を鞘へとしまう。
ルフレは元々寒さが得意ではない。出来れば村へ引き返して様子を見たかった。
「あ、雪!」
「わぁ、雪だ雪だ!ねえねえガイアー、はちみつかしてー」
「馬鹿、こんな寒さで雪なんか食ったら腹壊すぞ!」
案の定空からふわふわと粉雪が舞い降り始めた。
無邪気にはしゃぐリズやリヒト、ノノ達とは裏腹に冬の厳しさを知る者たちは顔を険しくさせる。
「ロンクーさん、これは」
「…ああ、この雪はフェリアの雪だ。これからもっと酷くなる」
フェリアに長く暮らすロンクーが言うのだから間違いないだろう。これ以上積もってしまえば温暖な気候で訓練された騎馬達は身動きを取れなくなってしまう。
彼に例を言い、クロムに相談しようとルフレは彼の姿を探すが、随分先に進んでしまっているようだ。
「クロムさん」
大きな声で呼んでみた。雪は音を吸収するとミリエルから聞いたことがあるが、道を薄く白に染めるそれは確実に視覚と聴覚を鈍くさせていく。
以前ライミから仕掛けられた城門前の攻防時とは違い、ここは山道だ。ただでさえ見晴らしが悪く道が細いのに軍が分断されたら非常に危険なのだ。
注意深く足を進めながらルフレはクロムの姿を探す。彼の潔白さを表すかのような白いマントが、この雪の中では余計に彼の姿を見つけづらくさせている。
雪がますます強まってくる。先程までひらひらと舞い落ちる雪にはしゃいでいた者たちも、いつの間にか体温を奪うように叩きつけられる雪に言葉を失っていた。話そうにも呼吸をする度に目や鼻に雪が入ってくるのだ。
「クロムさん!」
白い世界でようやく見つけた見慣れた藍色に、ルフレは安堵する。
寒さに少し顔を強ばらせている彼を見て、思わず駆け寄ってしまった。それがいけなかった。
クロムを探している間に足首まで積もっていた雪は木の根を隠しており、ルフレは引っ掛けてしまい体勢を崩してしまう。運悪くそこは急斜面で、知識はあるものの雪国での実戦経験が少ないルフレが咄嗟に体勢を直せるわけもなく。
声をあげるよりも前に、ずるりと雪の塊ごと彼女の身体は傾いで行った。
「ルフレ!」
何が起きたのかわかっていないままのルフレが斜面へと飲まれていく。
クロムは駆け寄り必死で手を伸ばした。今まさに斜面へと落ちていく手を掴んだはいいが、彼の足場も不安定であり、勢い付いた身体はルフレの重さで体勢を崩してしまった。
「クロム様!」
「お兄ちゃん!」
仲間たちの声がみるみると離れていく。
せめて衝撃からルフレを守ろうと、クロムは彼女の身体を引き寄せ強く抱きしめ斜面を滑り落ちていった。
「貴方はなんて無茶をするんですか」
雪と泥まみれになってしまった外套を叩きながら、ルフレは怒りを帯びた声で呟いた。
同じくマントを外し干しているクロムはバツの悪い顔で「すまん」とだけ言って火のそばに腰掛ける。
幸いにも二人は崖から落ちることもなく岩にぶつかる事もなく下へと滑落し、雪が緩衝材となったおかげで細かい傷と痣くらいしか外傷は出来なかった。
雲の切れ間だった為か丁度雪も勢いを弱めていた時に無人の薪小屋を見つけ、無事滑り込むことができたのだ。
とはいえ外は夜が近いのかみるみる暗くなっていくし、雪もまた酷くなってきた。
――無理に合流するよりも、ここで一夜を明かすほうがよさそうだ。
雪が叩きつけられ軋む扉の音に耳を傾けながらクロムはため息をつく。火をつけたとはいえ、簡素な造りの小屋では寒さを防ぎきることが出来ず吐く息は白いままだ。
小屋があるということは人里も近いだろうし、雪に慣れていないクロム達が下手に動くよりもここで暖をとっていたほうが安全だ。フレデリクが死ぬほど心配するだろうが仕方ない。
問題は彼女だ。
そっぽを向いて座っているルフレを横目に、クロムは頭を抱えた。
普段は温和な彼女が珍しく怒っている。
「俺の判断ミスだ。少し気が急いていたみたいで皆を危険に巻き込んでしまった」
「違います!…いえ、それもありますが、そうじゃないんです」
寒いのか手を擦り合わせながら、それでもルフレの口調は刺々しい。
どうしたものか。こんな気まずい状態で彼女と一夜を明かさないといけないのか。
他人の感情には疎い方であるクロムは炎越しに彼女のむき出しになった白い肩を見つめることしかできない。
どれだけの時間が経ったのだろうか。窓がない部屋では察することができないが、冷え込みはますます増していくことからもうとうに日は暮れてしまったのかもしれない。
空腹と寒さで容赦なく眠気が襲い来る。うっかり寝てしまわない為にも悴む手でファルシオンの手入れをしていた時だった。
「ルフレ?」
それまで携帯していたらしい戦術書を読んでいたらしい彼女が立ち上がる。
何事か、と動向を伺っていると、彼女は着ていたキャミソールをたくし上げ始めたのだ。
「おい…ルフレ?」
「クロムさん、貴方も脱いでください」
「うお?!」
ルフレの唐突な発言に、思わずファルシオンを取り落としてしまった。
唖然としているクロムを前に、彼女は服を脱ぎ去ってしまった。
焚き火に彼女の滑らかな背中がみえて慌てて視線をそらすも、彼女はそうこうしているうちに下まで脱いでいるようで、しゅるり、と布が擦れる音がした。
――まさか、寒さで頭がおかしくなったのか?
見てしまわないように手で顔を覆い隠していたクロムだったが、足音が聞こえた為思わず手の隙間からのぞき見てしまう。
ブーツだけは身につけているようだが、ルフレの足のラインが見えてしまいクロムの頬は火が噴いたかの如く赤くなってしまった。
以前ちょっとした事故で彼女の裸は見たことあるのだが、それでも実際目の前にすると気恥ずかしい。
「後ろ向いていますからクロムさんも早く」
「何故脱ぐ必要があるんだ!」
「戦術書を読んでいたら、寒い時は人肌と触れ合うことで暖を取れると書いてあったんです。私が寒いので早くしてください」
「触れ合う!?」
思わず声が裏返ってしまった。
しかし彼女は冗談をいっている口調でもない。
「隠すものがない仲って貴方が言ったことじゃないですか」
「そ、そうだがそれとこれは話が…」
「上から上着を被せますからお互いの裸は見せずに済みますよ、だから安心して…くしゅんっ」
混乱しかなり狼狽していたクロムだが、ルフレのくしゃみでようやく我に返った。
――ルフレの戦術書に書いてあることなのだから本当のことに違いない。
こちらが変な気を起こさなければ問題はないはずだ。それに裸のルフレをこのまま放置していたら風邪を引かせてしまう。
(ええい、俺も男だ!)
クロムは覚悟を決めて上着のボタンに手をかけた。
服がはだける度に突き刺すような冷気が肌に触れ身震いしてしまう。上手く指が動かずかなり手間取ったが上半身だけ脱ぎさると、クロムは「脱いだぞ!」と顔を覆いながらルフレに向かって叫んだ。流石に下まで脱ぐことには気が引けたのだ。
「では、じっとしていてください」
彼女はクロムの前に座ったようで、素肌が触れ合う感触にクロムの鼓動は跳ね上がった。
肩にバサリと布が掛けられ蓑のように巻きつけられ二人をすっぽり覆う。
「もう隠さなくても大丈夫ですよ」
ルフレの声に両手を顔から離せば、どうやらそれは先程まで乾かしていたマントと外套を被せられたらしく確かに互いの裸は見えない。彼女の後頭部しか見えないのだが。
(そういう問題じゃないだろう!)
この布の下にはルフレの裸体がある。男に比べたら柔らかい肉体が、クロムの胸板に押し付けられているのだ。
確かにルフレの言うとおり二人分の体温が篭って先ほどよりも暖かいのだが、それよりも彼女の体の感触に身体が熱くなってしまっている方が大きい気がする。
少し腕を動かせば二人を包む布は剥がされ、裸体が顕になってしまう。
それどころか、少し体重を加えただけで彼女の身体を押し倒すことができるのだ。
(って俺は何を考えているんだ!!)
湧き上がってきた邪念を振り払うようにクロムは頭を振る。
ルフレの表情を窺い知ることはかなわないが、後ろでこんなことを考えていると思われたら失望されるに違いない。
ルフレは大切な人だ。軍師として、親友として、…そして、女として。
一応けじめとしてペレジアとの決着まで正式に付き合わない、と二人の間で決めていたのだが、その決心が彼女の体温で溶けてしまいそうになる。
冷静さを取り戻そうと瞼を閉じれば余計に彼女の柔らかさと匂いを感じてしまい落ち着かない。
暴発してしまう前に無理にでも引き剥がした方がいいのか。しかし彼女を言うとおり暖を取るにはこれが最適な方法で、その温もりをいつまでも感じていたいと考えてしまう浅ましい自分がいた。
むしろもっと欲しい。髪の隙間から覗く白い項を見つめながら理性との駆け引きをしていると、「クロムさん」と唐突に話しかけられ心臓が跳ね上がった。
「な、なんだ」
「さっきは怒ってしまってごめんなさい。私、助けてもらったのに」
そのことか、と内心安堵しながら「今更どうした」と平静を装って語りかければ、彼女は背を丸めながらポツリポツリと呟き始めた。
「私、自分に腹を立てていたんです。それを貴方に八つ当たりしてしまった…もっと早く天候に気づいていれば貴方を止めることができました。挙句、貴方を巻き込んではぐれてしまって。もうすぐペレジアとの戦争が控えているのに」
「ルフレ…」
「今になって自分に記憶がないのが恨めしいです。知識は沢山あっても、私には経験が圧倒的に足りない。本来なら軍主である貴方を優先的に守らなくてはいけないのに、貴方まで遭難させてしまうなんて軍師失格ですね」
貴方は優しいから許してしまうんでしょうけど。
そう小さく笑うと、ルフレは膝に顎を乗せ縮こまった。浮き出た彼女の背骨がクロムの腹部に当たる。
「だからせめて、クロムさんが風邪を引かないようにしますね。貴方が風邪を引いたら皆さんが心配しますから」
特にフレデリクさんなんて、つきっきりで看護して自分が倒れちゃいそうですし。
そう笑いながら話すルフレに、クロムの興奮は少しずつ覚めていく。そして同時に胸の内で黒い感情が芽吹いていくのを感じた。
ルフレは基本的にクロムを軍主として見ている。
軍師なのだからそれが正しいのだろう。しかし、それだけでは満足しきれない自分がいる。
時折どこまでも冷静に物事を見つめている彼女に苛立ちを感じる時がある。
クロムのため、軍のために身を粉にして働く彼女の姿を見て、軍師として拾ったのは自身なのに、城へ連れ帰り縛り付けたいといった感情が湧き上がるのだ。
もっとさらけ出して欲しい。
誰にでも等しく接するルフレの薄皮を破り、もっといろんな感情を見たい。
そして踏み込んで自分だけ足跡をつけてしまいたいのだ。雪のように真っ白だろうその内面へ。
服をずらしてしまわぬよう、クロムは彼女の腹部へと腕を回した。
彼女の身体が微かに震えた。身体がより密着し、彼女の心臓の音まで聞こえる気がした。
「こうすれば、もっと暖かいだろう」
「ええと…クロムさん、私これでも嫁入り前の女子なんですよ?」
「知っている」
少しだけ身を捩る彼女を逃さぬよう、かっちりと両手をつないだ。
派手に動けば二人を包む布は落ち、冷気の中二人の裸身がさらされてしまう。それを理解している為か、ルフレはさほど抵抗せずクロムの腕の中に収まった。
「なあ、お前は俺じゃなくてもこんなことをするのか」
「え?」
「風邪をひかせたくないのならば誰だってそうだろう?例えばヴェイクやガイア、ロンクー達と二人きりでもこうするのか?」
「なんでその人達なんですか…」
彼女の耳が火照ったかのように赤く色づく。
はっきりと明言しない彼女に焦れて、クロムはさらに腕の力を強めて彼女の耳元で言葉を重ねた。
「お前は誰の前でも脱いで見せるのか?それとも俺が軍主だからなのか?」
「違います、私は」
「言えないのか?」
薄い花びらを一枚ずつ捲るように暴きたい。ルフレの本心を。
くすぐったそうに首を縮こませる彼女に吐息を吹きかければ、観念したかのように小さな声をあげる。
いつもの背筋がピンと伸びた軍師としての姿ではなく、クロムの目の前にいるルフレは恥じらう乙女のようだった。
「クロムさん…だからです」
「だったら顔を見せてくれないか?」
「貴方って、たまに意地悪ですよね」
かすれた声でそういうと、もぞもぞと服の中を動いてルフレがようやくこちらを向いた。
焚き火に照らされ微かに潤んでいる瞳はどこか背徳的で、クロムは背筋からゾクリと這い上がる何かを感じる。
以前自由を知りたいと言ってガイアに連れて行かれた盛り場にいっても、こんな衝動は感じなかった。
彼女たちは裸よりも際どい格好でしなだれかかってきたが、欠片も心に響かなかったが今は違う。
彼女の睫毛の影が震える度、その柔らかく暖かいものがもっと欲しいと無意識に喉を鳴らした。
「私、貴方を失いたくないんです。恩を返したいというのも勿論あります。でも、それ以上に…」
「わかっている。俺もだよ、ルフレ」
続きの言葉はわかっていると言わんばかりにルフレの唇に自らのものを押し当てた。
気持ちを伝えた時に交わしたきりしていなかったキス。彼女は驚いたように少しだけ息を飲んだが、すぐにクロムへ身体を委ねた。
焚き火がパチリと爆ぜるのを合図に二人は唇を離す。視線が交錯し合ったとき、ルフレがふふ、と笑って口元を抑えた。
「どうした」
「いえ、初めてした時のこと思い出して、つい」
「あれは忘れろ…」
クロムは頬を赤らめ苦笑いをする。
お互いに不慣れだったということもあり、勢いをつけすぎて記念すべきファーストキスは歯と歯がぶつかり合うという非常に残念な結果に終わった。
二人で声を上げて悶絶してしまい危うく他の人に見られるところだったことを思い出し、おかしいのかルフレは肩を震わせ笑い続けている。
「悪かったな、下手くそで」
「いいえ、あれもいい思い出です。私にとって大事なファーストキスですから…うふふ」
「上書きしてやろうか」
「え、…んむっ」
再び彼女の唇を捉え、今度は丹念に唇を重ね合わせた。
少しだけ開いたそこから舌を入れるとルフレの身体がびくりと跳ねた。しかし大丈夫だ、と言うように背中をさすれば彼女は大人しくなり、されるがままになる。
拙い動きで口内に侵入し、彼女の舌を探し絡めた。ぬめるそれが触れ合うたびにルフレはピクピクと震える。
少しだけ怯える彼女の中はとても熱い。
そのことに気をよくし舌を抜く。二人の間で繋がる銀糸が切れた瞬間、ルフレは魚のように口をパクパクさせて荒く息を吸った。
「ど、どこでこんなこと覚えたんですか!」
「知りたいか?」
ニッと笑うとクロムはルフレに体重をかけた。
あっけなく彼女の身体は床へと倒れ、パサリと落ちたクロムのマントを下敷きにして隠されていた裸体が露になった。
「あの、クロムさん?こ、こういうのは結婚してからじゃないと」
「すまない、だがもう我慢できないんだ」
ルフレの外套を肩にかけた状態で、クロムは彼女の首筋に唇を寄せた。
まっさらなそこに赤い花を咲かせていく。その度にルフレの喉は震え、肩にかけられた手は力なく床に落ちていった。
「もう、いけない人」
「脱げって言ったのはお前だろう?」
覚悟しろ、そう笑うとクロムの唇は首筋下へと這わされ、鎖骨に口づけを落とした。
ルフレはそんな彼に何か言おうとしたが諦めたようで、与えられるもどかしい快感に小さな声をあげる。
雪で世界から隔離されたこの空間では、今だけ聖王代理という立場を忘れることができる。
男と女。むき出しにされた本能だけがそこにあった。
好きな女の裸を前に我慢が出来る男なんているものだろうか?
甘い香りにクラクラしながらクロムは貪るようにルフレを求めた。
既に日が沈み寒さは厳しさを増しているはずだったが、肌を晒し合っている二人の間にはそれを感じさせない熱があった。
唇や指が這わされる度に、ルフレは切ない声を上げた。知識こそはかろうじてあったようだが記憶にない快感が弾け、戸惑うように身を捩り、それがまたクロムの欲をそそる。
王族として子を成すための指導こそ前々から受けていたが実践するのは初めてだった。しかし、普段決して見せないあられもない姿を晒すルフレが愛しくて仕方ない。最初こそ壊れ物を扱うような手つきで触れていたが、次第に調子づき、恥じらう彼女の中を暴くように掻き混ぜていく。
獣のような熱い吐息も、むせび泣くかのような官能の声も、外を覆い尽くす雪が吸収してくれることだろう。
早く繋がりたい。欲求に抗えずクロムは猛る自身を取り出しぬかるむそこに押し当てた。
とろんと目を熱で浮かせていたルフレの瞳が見開かれた。クロムの胸板に力なく手をかけ、ふるふると首を振る。
「クロムさん、それはまだ、ダメ」
「もう遅い、ルフレっ」
今更止められるはずがなかった。弾む胸に汗がポタポタと落ちる。
解けてとろけてはいるがその蕾はまだ小さく、ルフレは体内に入り込んできた異物に苦悶の声をあげた。
その様子に心を痛めながらも一度ついた火は消すことは難しく、クロムは彼女をあやすように口づけてさらに奥深くを求めて侵入していく。
途中でブツリ、と薄い肉が切れる感触がした。
「わ、たし…はじめて、だったんです、ね」
苦しげだが、どこか安堵したような声を漏らすルフレの何もかもが愛おしい。
目尻にいつの間にか浮かんでいた涙を吸う。彼女もそれに応えるようにとクロムの頬に口づけをした。
もう抑えることは出来なかった。
余裕なくルフレの名を呼ぶと、にじみ出た血を潤滑剤にクロムは腰を動かしていく。
動くたび喘ぎ、口を抑えようとする彼女の手を取り床へと押し付けた。
「クロム、さん、ぁっ」
「ルフレ、もっと、もっとだ」
燃え上がる炎が揺れ動くたび、濡れた瞳が交錯する。
全てを喰らい尽くすように、クロムは無心に腰を動かし続ける。
その度に色々な表情を見せるルフレもまた、いつしか痛みは消え頭を白く染める程の快感に震えていた。
「だいすきだ、ルフレ」
「わたし、も」
生まれも境遇も違う二人が一つに流れ込み混ざり合う。
繋がる心と身体の心地よさに二人は同時に震え果てた。
それでも足りない。
抱きしめ合ったままうなずくと、クロムとルフレは一晩中交わり続けた。
雪が解けるほどに熱く、深く。
*
「あの後大変だったんですからね!フレデリクさんが絶対死守と書いたハチマキをつけて一週間はやたら可愛いクマが縫い付けられた上着を手につきまといますし、うかつにみなさんと一緒に水浴びできませんし、体の節々は痛くて戦闘に支障がでそうになりますし!」
「仕方ないだろう、初めてだったんだからな。今ならあの時よりずっとうまくなっていると思うが試してみるか?」
「昨日も実践してみせたでしょう!…クロムさんの破廉恥。こんな姿見せたらルキナ達に幻滅されますよ!」
「どっちのだ?」
「両方です!バカッ!!」
今はどこかへ旅に出ている未来から来た子供達と、目の前を駆けていく子供達を思い出して余計にルフレは顔を赤くさせクロムの手をぺちりと叩いた。
とはいえ無事に現代のマークを産んで、彼とほぼ毎夜愛し合える幸せに口元が自然と綻んでしまう。
もしあのまま消えてしまったら、彼らとこうして幸せを育むことはかなわなかったのだから。
(もしかして、この痴話喧嘩もナーガ様は聞いていたりするんでしょうか)
禍々しい紋章が消え去った掌を撫でながら、ルフレは澄みきった冬の空を仰ぐ。
だとしたらものすごく恥ずかしい。このにやけきった顔もお見通しなのかもしれない。
慌てて冷気で頬を冷やそうと頬を叩いていると、子供たちの甲高い悲鳴が聞こえた。
「きゃーマーク!」
「うわぁぁん、ねーさん助けてー!」
見ればふきだまりに足を取られたようで、マークが下半身すっぽり埋もれた状態でジタバタともがいていた。ルキナが必死に引っ張り上げようとしているものの、子供の力ではびくともせずむしろルキナの足まで埋もれていっている始末だ。
「わーん、僕このまま雪だるまになって死んじゃうんですかー!とーさぁぁん、かーさぁぁぁん!」
「全く、大げさだなアイツは」
「元気でいいじゃないですか」
クロムは大きく白いため息をついてからルフレに向き直り微笑む。
ルフレもまた微笑み返すと、「今行くから待ってろ!」と叫んで駆け出していった。
軽々と二人を持ち上げる夫と歓声をあげる子供達を見つめながら、ルフレは幸せを噛み締めた。
暖かくイーリスを照らす日の光が積もった雪を少しずつ解かしていく。
もうすぐ春だ。
色とりどりの花が咲き誇る季節になったら、大きいルキナ達も誘ってハイキングにでも行こう。鋼の味と評された料理もこの冬中に練習して、おいしいお弁当を作って皆で楽しもう。
ルフレはそう心に決めて、三人分の足跡が付いた雪原をたどるように雪を踏みしめた。
あとがき
初☆クロルフR指定第一弾。
全ジャンルでは結構一方通行だったり無理やりモノが多かったので終始ラブラブなクロルフは物凄く新鮮な気持ちで書けました。というかクロルフで和姦以外だとあまり思いつかないんですよね…公式でいちゃつきすぎというか。
一応お互い初体験を意識して、クロムさんがあまり上手じゃなくルフレさんも感じきれていない初々しさが出てたらいいな、と勝手に思っています。
雪山で遭難シチュはいつか絶対書いてみたいと思ってたので無事野望成就出来てよかったです。
余談ですが、私の中のフレデリクは過保護になりすぎているんじゃないかと…でもその気遣いが時に鬱陶しいと思いつつもクロムはありがたく思っているんじゃないですかね。
ちなみに表紙イラストは見えづらいですがクロルフが描いてあります。
ルフレさんのタイプは銀髪パッツンパイユニが正解。
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ゲームとかガ○ダム大好きな腐り人。
ゲームとかガ○ダム大好きな腐り人。
Serch